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「電話はうれしそうに出るものよ」 新社会人に贈る、道をひらくためのちいさな鍵

新卒で入った会社に、普段より2オクターブぐらい高い声で電話に出る女性がいた。社長の奥さんだ。
「お電話ありがとうございます!⚪︎⚪︎会社の⚪︎⚪︎でございます!!」。
敢えて記号をつければ、「お電話ありがとうございます⤴️!⚪︎⚪︎会社の⚪︎⚪︎でございます⤴️!!」という感じだ。(表示できてる?)

入社当初はこのハイテンションな応答に驚いたが、新人ゆえ「一番最初に電話に出る人」に任命された私は、奥さんにこう伝授された。
「電話はね、嬉しそうに出るものよ。それだけで、相手の気持ちは変わるんだから」。

嬉しそうに。
そう言われれば、奥さんは常に嬉しそうに電話に出ている。単にハイテンションというだけではない。顔を見れば、「いやーん、うれしー!」みたいな表情。
その表情はちょっと真似できないなと思ったけれど、この「嬉しそうに」だけは守ることにした。

その後、「嬉しそうに電話に出る」はすっかり私のオハコになった。というか、癖づいた。相手の気持ちが変わったかどうかを試す機会はなかったけれど、この「嬉しそうに電話に出る」を携え、その後の仕事人生を生きていくことになる。

数年後、私はある設計事務所の広報室室長になった。室長といっても、なんでも屋だ。私と経理を除けば、そこにいるのは全員が建築士。建築士がやらないことはなんでもやるのが私の役目で、営業も、広報も、雑務も、怒られ役も、なんでもやった。この、怒られ役で役に立ったのが、実は、「嬉しそうに電話に出る」、例のあれだった。

その設計事務所にはスタッフのお目付役的な方が出入りしていて、時折「挨拶が」とか「掃除が」とか、ごもっとも、かつ姑的な指摘電話がかかってくることがあった。第一声から爆発していることがほとんどだが、私が「嬉しそうに」電話をとった時には不思議と怒りが鎮まる。「いい声ね、うっとりしちゃう」とひと言いって、「気をつけるように伝えて」と穏やかに話が済んだ。

他にもトラブルやクレームの電話は何度もとったけれど、「嬉しそうに」電話をとると、当事者に電話をつなぐ頃にはたいてい相手が落ち着いていて話が穏やかに済む。思わぬ歓待に拍子抜けしたのかもしれない。
緊張しながら問い合わせしてくる人も、こちらが「嬉しそうに」電話をとると、こわばっていた筋肉が解けるように「実はね」と話をしてくれる。そのままするする話が進み、営業的にはとてもありがたい展開。おのずと結果がついてきたのは言うまでもない。

嬉しそうに電話に出ると、相手が心を開く。穏やかになる。怒りだって鎮まるし、交渉ごともスムーズに進む。相手都合の電話が、いつの間にかこちらのペースの電話になる。「嬉しそうに電話に出る」は、交渉ごとのイニシアチブをとる秘密兵器なんだと思う。

春爛漫。
2週間後、たくさんの卒業生が新社会人になる。ネット全盛の時代、電話をとる機会は少なくなったかもしれないけれど、どこで役に立つかわからない。
これから新社会人になるひとには、「嬉しそうに」していると、物事がプラスに転じることを知っておいてほしい。多分それは、電話じゃなくてもどんな時でも。「嬉しそうに」が道をひらいて、いつか、想像もしなかったところに辿り着けるはずだから。

頑張って、新社会人さん!
(私もがんばる!)



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