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93歳のネットショッピング事情
超高齢者にも関わらず、ネットを自由に使える父は、
すごいね93歳なのに、こんなにパソコンできるなんて、
と周りの人から言われて、本人もまんざらでもない様子。
むしろ、ネット依存といっても良いほどの、ネット好き。
老人ホームでも放っておくと一日中、自室にこもってPCの画面を見ている。
当然、ネットショッピングも大好き。
思わぬものを、
ネットでお買い上げし、私をギョッとさせてくれた。
困った商品ランキングは以下のとおり。
1位 広帯域受信機と室外アンテナ
父は若い頃からBCL(Broadcast Listening)といって、海外からの放送をラジオのような受信機で聴く趣味があった。
大阪の家に機材一式を置いてきたのだが、
老人ホームでも再現したかったのだろう。
しかし、内気な父は、誰にも言い出せず、
小型の受信機と室外用アンテナを勝手にネットで購入してしまった。
しかもあろうことか、自分でホームの個室のベランダの手すりに設置した。
父は大腿骨骨折後、普段は歩行器使用。
作業中によく転倒しなかったものだ。
後日、老人ホームにかけあって、エアコンの排気口からアンテナコードを屋外に出してもらい、特別に設置してもらった。
職員さんのご厚意に大感謝である。
2位 碁盤碁石セット
囲碁などしたこともない父。
なぜか本格天然石の碁石と立派な脚付の碁盤を突然購入しようとした。
ホームの部屋にはそんなものを置くスペースなどない。
事前に私が気がついて無事キャンセルできた。
「後々、高く売れるから購入した」
とのことだが、本当の意図はわからずじまい。
3位 一眼レフカメラ
脚が悪く外出できないのに、
高価なカメラを購入しようとした。
これも事前に見つけてキャンセル。
本当に写真に興味が湧いたのかと思い、
私の一眼レフを貸し出して、一緒に外出して
操作方法を教えたが、
その後、父が自分で撮影することは一度も無かった。
他にも、国産の巨大レザーバッグ、デスクとプリンター、観葉植物、定期購入で毎月届けられるサプリ、などなど。
本来ならば、父本人のお金だし、本格的な認知症でもないので、自由にものを買う権利がある。
大阪で一人暮らしの生活でも、ネットで生活用品を頻繁に買っていたようだ。
しかし、父の入居した老人ホームの部屋は8畳ほど居室にバリアフリートイレ、洗面室がついたワンルームスタイル。介護用ベッドや家具を配置すると、余分なスペースがない。
しかも父は歩行器使用の不自由な身である。
闇雲に物を増やすと、転倒の危険もあった。
悪いけどここでの暮らしは、ものを増やしたらあかんねん。
ほしいものがあるときは、ネットで買わずに私にいうか、
ホームの職員さんに頼んだら買ってきてくれはるから、
と、父に幾度も説明するも、なかなかお買い物をやめてくれない。
内気でいわゆるコミュ障な父は、職員さんに「お願い」ができないのだ。
そうこうするうちに、PCにも頻繁にウイルス感染の兆候が表れ始めた。
詐欺などの危険もあるので、
致し方なく、本人に説明してクレジットカードの限度額を十万円とした。
すると父は、新たなクレジットカードの申し込みを
これまた秘密裏に、ネットで何度も繰り返す。
やめてくれるように説明したがすぐに忘れてしまう。
カードの審査が通らなかったのは幸いであった。
自分で稼いだお金を使って、好きなものを好きな時にネットで閲覧し、
買い物するのは、大きな楽しみだろう。
少々耄碌したからといって、娘にその権利を取り上げられたら、
さぞかし味気ないだろう。
私だってネットショッピングは大好きだしな。
悪いなあ、お父さん。
そんな父も もうすぐ94歳を迎える。
さすがにパソコンの操作もあやしくなってきて、
以前のようにショッピングで私を困らせる回数も減ってきた。
そして、
施設の職員さんへの「お願い」も少しは、できるようになったようだ。
父なりに東京の老人ホームでの暮らしに適応してくれているのだ。
東京に来てもうすぐ一年半。
お買い物事件は父の適応の過程だったのだろう。
一度も、大阪に帰りたい、などど
不平を言わない父を、少し自慢に思うのである。