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8/8『子どもの誇りに灯をともす』著者ロン・バーガー氏の研修会@京都 〜「美しい作品」PBL(プロジェクト型学習)と芸術教育の融合が変革を踏み出す
こんにちは、横山です。岡山県高梁市で探究学習や学校地域連携のコーディネーターなどしています。
昨日は久しぶりに京都へ。
『子どもの誇りに灯をともす』刊行 & DL Japan開催記念「モデルと批評〜美しい作品をつくるために〜」という1DAYワークショップに参加してきました!
テーマは「美しい作品〜Beautiful work〜」。
講師は、High Tech Highの創設と教育活動に大きな影響を及ぼし、多数の著作もある教育者ロン・バーガー氏(Ron Berger)。
全米屈指のPBL校ハイ・テック・ハイの教育思想に大きな影響を与え、現場の教師に20年読み継がれる教育書のバイブル『子どもの誇りに灯をともす――誰もが探究して学びあうクラフトマンシップの文化をつくる』の著者であり、米国の教育改革の中心的存在でもあるロン・バーガー氏(Ron Berger)。
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どんな本か、動画もありました。
また、主宰メンバーの一人、芦田加奈さんを初め、会っていそうでリアルで会ったことのない方々にも大勢会えそうだったので、飛び込んできました。
「美しい作品〜Beautiful work〜」とは?
ロン・バーガーさんが提唱する学びのキーワードして「美しい作品〜Beautiful work〜」というコンセプトがあります。
「プロジェクト型学習(PBL)」と「芸術教育」を融合し、「クラフトマン(職人)シップ」の文化を育む、ざっくり言うとそんな感じです。
クラフトマン(職人)=誠実さと知識を兼ね備え、自分の仕事に誇りを持って一心に取り組む人。その文化をみんなで共有すると、生徒は内面から自分を変えていく。
「提出して終わり」ではなく、仲間からの批評をもとに何度も草案をつくり直し、より良いアウトプットを目指す授業が深い学びをもたらす。
生徒は他者の評価ではなく、自分なりの美意識や評価基準を原動力にして学ぶようになる。
講演の中でも、子どもたちの様々な「美しい作品〜Beautiful work〜」がいくつも紹介されました。
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「美しい作品〜Beautiful work〜」を核とした学びとは一体何のか、このあと、まる1日かけて体感することになります。
京都らしく茶道のおもてなしからスタート!
会場は京都の立命館大学朱雀キャンパス。京都らしく、研修開始前は、茶道でのおもてなしタイムからスタートしました。
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実際に作動の先生にお手前を披露していただき、会場全体で「和の美しさ」を感じ取る、そんなところからセッションがスタートしていきます。
参加者なのに、アイスブレイクを担当!
会場が物音ひとつない静寂につつまれ、和の余韻に浸りきっているタイミングで、横山が紹介されました。
そう。なぜか参加者なのに、この後のアイスブレイクを頼まれて担当することに!
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先日、岡山県教委の研修会で好評だった「盛りすぎ自己紹介」を行いました。(自分の強みや得意技をちょっと盛って紹介しましょう、というワークです)。
今回は、パリオリンピックにあやかり、最も盛った自己紹介をした「ホラ吹き」の方に「ホラふ金メダル」を進呈する、というかんじで行いました。
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茶道からの静寂感を打ち破る、大変な盛り上がりとなりました。
ロン・バーガー氏の講演
さて、アイスブレイクの後は、ロン・バーガー氏の講演。
「美しい作品〜Beautiful work〜」を核とした学びについてのお話です。
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元々、アメリカの田舎の小さな学校の教師だったロン先生。
現在は「EL Education」という組織に所属し、ハイテックハイをはじめとした世界中の先進的な学校にアドバイスをしている。
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学びの前提となる、どういう子どもたちを育てたいのか、という話しから。「美しい作品〜Beautiful work〜」はあくまで手段であり、何のためにやるのか、どんな資質能力を育てなのか、ということは強く話されていました。
周りを驚かすような「美しい作品〜Beautiful work〜」を創りあげることで、子どもたちに本物の自尊心が生まれる。
「美しい作品〜Beautiful work〜」を創り上げることで、社会や大人を驚かせ、影響を与えることができる。
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そして、子どもたちが自分の可能性や能力に驚き、誇りを持てるようになる。人生や社会に対して主体性を発揮するようになり、周りがただ褒めたりもてはやすことだけでは得られない、本当の自己肯定感を得ることができる。
それが、「美しい作品〜Beautiful work〜」の目的であり、価値なのだ、というのがロン先生の話の骨子です。
ヘビのプロジェクトの紹介
講演の中では、いくつかのプロジェクトが紹介されました。
その1つがこの「ヘビ」のプロジェクトです。小学5年生(小学2年生でした)の取り組みと作品でしたが、そのクオリティに参加者全員目を丸くして驚いていました。
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下記の写真は、作品の1ページですが、ほぼ全ての子どもたちが同じようなハイクオリティの作品を創りあげていました。
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何度もドラフト(草稿)を作り、何度も直して、「美しい作品〜Beautiful work〜」を仕上げていきます。
驚くべきことは、先生が教え込むのではなく、子どもたち同士でフィードバックし合い、作品のクオリティを上げていく、ということでした。
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その仕組みが、後から出てくる「モデルと批評」という手法?なのですが、最初は「ああ、子どもの絵だな」と言うレベルの作品(ドラフト)が、プロセスを経て、「これ小学生が描いたの?!」というクオリティに進化していきます。
また、これは子どもたちが「ヘビの素敵さをもっと世にPRしよう」と制作したミュージックビデオ。ヘビの推し活ですね。かなりバズったそうです。
みんな楽しそうやな〜。
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上記の写真はハイテックハイで行われる「プレゼンテーション・ラーニング」の様子ですが、「美しい作品を創ること」と同じか、それ以上に、子どもたち自身が「言語化し、振り返る」ということも重視しているようでした。
先ほどの「ヘビのプロジェクト」に取り組んだ子どもたちは、ライティング(日本で言う国語)のスコアが大幅に伸びた、という成果もあったそうです。
オースティンのバタフライ
「美しい作品〜Beautiful work〜」を創り上げていくプロセスの説明として、「オースティンのバタフライ」という、ロン先生が世界的に有名になるきっかけとなった動画を見せてくれました。
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以下から動画も視聴できます。
ロン先生がファシリテーションしながら、子どもが作ったドラフトを、「子どもたち自身による批評(フィードバック)」を繰り返すことで、何段階かのドラフトを経て、作品が驚くべき変貌を遂げる様子が修められています。
(最後は、子どもたちも「オーッ!!!」と歓声をあげる。会場の参加者からも歓声が上がっていました)
これは本当にすごい。真に子ども同士が「学び合う」とは、こういうことなのか、と雷に打たれたような感覚になりました。(※実際に雷に打たれたことはありません)
モデルと批評
そして、「モデルと批評」を体験する、簡易化したワークを行いました。
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あるクラスで生徒が作品を作れば、当たり前ですが、そのクオリティにはバラツキが出ます。クラスの中で、質の高いアウトプットしている生徒の作品を「グッド・モデル」として、それをお手本に、他の生徒は自分の作品の品質をあげる、極端に言うと真似するようにします。
ポイントは、ただ見て真似るのはなく「批評」、つまり言語化をトレーニングすることです。
その作品が「いいかんじ」だとしたら、「なぜ、いいかんじなのか」、その作品を「Good」たらしめている要素や他の作品との差は何なのか、を言語化し、他者につ伝えるトレーニングです。
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アメリカには「スピード・デイティング」というのがある(短い時間で席を次々代わり、男女が出会う、というイベント的なもの)そうなのですが、その「スピード・デイティング」方式の「モデルと批評」の体験をしました。
3人1組で、2分間作品に目を通し、3分間でその作品の「Goodな点」を言語化してみる(対話する)という流れです。かなりテンポよくいくので、頭を絞って使う感じですが、これも何となく「質問する」と全く異なり、フォーカスされた言語化のトレーニングだと感じました。
Dilemma Consultancy(ジレンマ・コンサルタンシー)を体験!
ワークの最後は「Dilenma Consultancy(ジレンマ・コンサルタンシー)」を体験しました。日本語で言うと「お悩み相談会」みたいな感じです。
ちょっと息切れしてきたので(笑)、詳細は割愛しますが、これもうまく段階を踏むことで、効果的な対話を行い、それぞれが抱える「ジレンマ(課題や悩み)」の解決の糸口を掴むことができます。結論だけ言うと、かなり良かったです!
手法や理論より大事な「Great Love」。愛に溢れるロン・バーガー氏。
そんなこんなで、あっというまの1日。
最後に、ロンの両親のエピソードが紹介されていましたが、それもとても心に残るものでした。今の学びのあり方に一石を投じる、考えさえられる話でした。
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個人的には、「Beautiful work」を「美しい作品」として訳して学校現場に持ち帰るのは、ちょっと怖さも感じました。誤解が生まれそうだからです。
いま、学校現場では「探究学習」「プロジェクト型学習(PBL)が広がりを見せ、試行錯誤や失敗の重要性が説かれるようになっています。
「美しい作品」
というワードは、「結果重視」のようにも受け取れるし、プロセスよりも作品の完成度に重きを置いている(それも大事なのですが)ようにも捉えられるからです。
また、疑問としては、「美しい作品」と提示されると、子どもたちもプレッシャーになるのではないか、とも思いました。創るのが得意、という生徒ばかりではないので。
その辺は、講演会後の懇親会でもロン先生にも直接お聞きし、参加者の方とも意見を交わしました。
「Beautiful work」でなぜ人々の心が動き、社会に影響を与えることができるのか。
それは、「Beautiful work」に至るまでの、創り手の熱意や試行錯誤、想いやストーリーが相手に響くからではないでしょうか。見かけの美しさ、ではなく、内面やプロセスも含めた美しさ、です。その意味では、茶道の器とかもそうですが、決してきらびやかな美しさでだけでない、本質的な「美しさ」の感覚は日本の文化の根底に流れるものかもしれません。
英語の「Beautiful」の語感・ニュアンスと、日本語にしたときの一般的な「美しい」との微妙な違いもあるようにも思いました。
また「作品」も英語では「Work」つまり「仕事の成果としての作品」というニュアンスがしっかりあるので、そこも微妙にズレを感じるところです。
ロンの話の中で、「エクセレンスの文化」というキーワードも度々出てくるのですが
「Beautiful work」(=卓越した仕事の成果としての作品)
という日本語の方が、個人的にはしっくりくるかな、とかんじました。その辺のニュアンスは、ロン先生も同意してれているようでした。「Beautiful work」は「上辺の美しさ」のことではな決してない、と。内面的なものを含めた、挑戦する姿、何度もやり直し、努力する結晶としての美しさのことだ(というようなかんじで言っていました)。
ロン先生の本のタイトルの日本語版は『子ども誇りに灯をともす』ですが、「Beautiful work」が目的になるのか、「子ども誇りに灯をともす」ことが目的になるのか、で、大きく教師の関わり方は変わると思います。
また、そもそも『子ども誇りに灯をともす』のは教師なのか、それとも、何かをやり遂げることで「子ども自身」が己の誇りに灯をつけることができるのか、教師はその支援や伴走をしていくのか、その捉え方でも全く異なってきます。
ロン先生の講演を聞き、対話するの中で強く感じたのは、「Beautiful work」やプロジェクト型学習の手法や理論よりも、ロン先生の「子どもたちへの、大きな、深い愛」です。
「Great Love」愛に溢れるロン・バーガー先生。
そんなワードがぴったりのイメージなのです。
実際「これまでの50年の教師人生で、良いところがない生徒を見たことがない」と真剣に話してました。そして、これまで教えた生徒は、名前も顔も全員覚えている、と。教え子も、何十年も昔に創った作品のことをいまだに覚えている、とも。
生徒と教師で共に「Beautiful work」を創り上げるプロセスと喜びは、体と心の深い部分に刻まれ、拠り所として、その人の人格の核となっていくのだと思います。
そんなことが心に残った京都での勉強会でした!
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