米10月CPIが示唆したこと、しなかったこと
米国のインフレ圧力は一巡へ
米10月CPIは総合が前月比+0.4%、コアが同+0.3%と市場予想(それぞれ同+0.6%、同+0.5%)を下回り、米国のインフレ圧力が一巡しつつある可能性を示唆した。
主な品目では、医療費が前月比-0.5%と16ヵ月ぶりのマイナスとなったうえ、その幅も1971年10月に並ぶ大きさだった。ただし、前回の落ち込みが10月だったことに象徴される通り、米国予算の新年度(10月スタート翌年9月終了)を跨いだ影響の可能性もあり、FRBの望む需要鈍化が顕在化したとは考えにくい。
それでも、中古車・中古トラックが前月比-2.4%と4ヵ月連続で下落し、下落幅も7ヵ月ぶりの大きさを記録したこと、被服費が同-0.7%と2ヵ月連続でマイナスとなったことは、これまでの金融引き締めが米国経済に浸透しつつあることを示した。
次回12月FOMCでの利上げ幅は50bpへ縮小される可能性
直近のFOMC後に市場が予想した通り、次回12月FOMCでの利上げ幅は、これまでの75bpから50bpへ縮小されそうだ。しかし、このことがFRBのハト派化を示すかというと、それは言い過ぎだろう。
実際、パウエルFRB議長は直近のFOMC後の記者会見で下記のように発言している。
”the question of when to moderate the pace of increases is now much less important than the question of how high to raise rates and how long to keep monetary policy restricted”
(今や、どれだけ高く金利を引き上げるかや、どれだけ長い間、制限的な金融政策を維持するかという疑問に比べれば、いつ利上げペースを緩めるのかということはそれほど重要ではない)
”we may ultimately move to higher levels than we thought at the time of the September meeting”
(我々は最終的には9月会合で考えていたよりも高い(金利)水準へ向かうだろう」とも発言した。
しかし、FF金利の最終的な水準に関するヒントは無し
つまり、今回の米10月CPIはFRBが次々回からではなく、次回のFOMCから利上げペースを鈍化させるシナリオの蓋然性を高めたと言えるが、FF金利が最終的にどこまで引き上げられ、いつまでその水準を維持するのかという点についての情報はほとんど提供していない。
それどころか、コアを前月比年率、3ヵ月前比年率、6ヵ月前比年率、前年比と並べてみると、一段と加速するリスクが低下したとは言えそうだが、FRBが目標とする2%へ順調に向かうという軌道にはない(Chart 1)。
アトランタ地区連銀の価格改定頻度で分けたCPIを見ても、今回の鈍化は引き続き価格改定頻度の高い(≒粘着性の低い)財とサービスが中心で、価格改定頻度の低い財とサービスは高止まりしたままだ(Chart 2)。
しかし、FF金利先物が織り込むターミナルレート(=今回の利上げサイクルにおけるFF金利のピーク)は米10月CPIの公表をきっかけに25bp幅の利上げにして1回分減少。それに連動して米国の長期金利は一晩で20bp~30bpも低下した(Chart 3)。
市場の期待が抱える矛盾
そもそもでいえば、市場参加者がFRBのハト派化をFOMC参加者の想定よりも早く織り込めば織り込むほど、金融市場は緩和的な環境になり、それまでの引き締めの効果を相殺してしまう。その分、FRBは一段とタカ派的にならざるを得ないだろう。
米10月CPIはFOMC参加者の抱く懸念を幾分か緩和したと考えられるが、その後の金融市場の反応はそれを打ち消して余りあるほどだったのではないだろうか。来週はFOMC参加者の発言機会が多く予定されているが、その内容は総じて市場参加者の期待を牽制するタカ派的なものとなりそうだ。