嶋津洋樹

嶋津洋樹

最近の記事

円高・株安は突然に?

 まず、そもそも今春頃からの円安は金利差で説明が難しく、いずれ調整が起きる可能性が高まっていた(Chart 1)。  もちろん、為替は必ずしも金利差で決まるわけではない。むしろ、経常収支や貿易収支の赤字、短期的な資金フローなどは無視できない。  とはいえ、すべてを「悪い円安」に絡め、国力低下とか、デジタル赤字、NISAなどと結びつけて説明しようというのはやや強引。少なくとも、債券市場を中心に日米(欧)で金融政策が逆方向に向かうという見方が強まるなかで、それを無視した議論の説

    • FRBの利上げと金融市場(米国債編)

      利上げ局面における米国債利回りの推移は非常にシンプル 昨年9月には1970年以降のFRBの利上げ局面における米国株を振り返ったが、今回は米国債。ただ、米国株が3つのパターンとやや複雑だったのに比べると、利上げ局面の米国債は極めてシンプルな結果となった。 過去7回の利上げ局面を振り返る 再掲になるが、Chart 1は1970年以降のFF金利と公定歩合(Discount rate)の推移で、最初の利上げから最後の利上げまでの期間が300日以上であることを「利上げ局面」として

      • 景気減速の主因は本当に金融政策か?

        OECD景気先行指数は景気再加速を示唆 G20を対象としたOECD景気先行指数は2022年4月以降、前月比プラスが続き、今年8月には長期平均の100を上回った(Chart1)。OECD景気先行指数の景気循環に対する先行期間が6~9カ月程度ということを踏まえれば、G20の景気は今年の初めに底入れし、2024年の半ば頃に潜在成長率を上回るペースまで加速することが見込まれる。 もちろん、先行期間はあくまで過去の平均であるうえ、直近のパンデミックはもちろん、金融危機などのショック

        • 中国景気の行方

          短期的な見方緩和的なマクロ経済政策の発動は期待しにくい 中国の短期的な見通しは、政府・金融当局が財政支出を伴う「実弾」や大胆な金融緩和政策をいつ打ち出すか次第だろう。ただ、格差の解消を目指す共同富裕という思想は景気対策に伴う「波及効果」(≒トリクルダウン)との相性が悪い。「習一強」体制が確立し、中国政府内で異論を認めない雰囲気が強まっていることを踏まえれば、中国景気の本格的な回復につながるようなマクロ経済政策は期待しづらい。 実際の政策も「小粒」で先行きに不透明感 たと

          動き出した植田日銀

          日銀は7月27、28の両日に開催した金融政策決定会合でYCC(イールドカーブ・コントロール)の運用を柔軟化することを決定した。具体的には「長期金利の変動幅」について、従来の「±0.5%程度」ではなく、「『±0.5%程度』を目途」としたうえで、「10年物国債金利について0.5%の利回りでの指値オペを(中略)実施する」としていたところを「1.0%の利回り」へ引き上げた。 今回の決定でYCCの緩和効果は抑制へ 植田総裁は今回の決定について「上下双方向のリスクに機動的に対応してい

          動き出した植田日銀

          米1月CPIと、しつこいインフレ

          インフレは過去のもの?  米1月CPIは、昨秋以降の「インフレは過去のもの」という楽観論に見直しを迫り、FRBが年内の早い段階でハト派化するという期待に疑問を投げかけた。  もちろん、総合は前月比+0.5%と前月の同+0.1%から伸びが加速したとはいえ、市場予想並み。コアも前月比+0.4%と昨年12月と同じ伸び率で、やはり市場予想並みにとどまっており、米国のインフレが再加速しているわけではない。それどころか、前年比の伸び率は総合が+6.4%、コアが+5.6%と、いずれも昨年

          米1月CPIと、しつこいインフレ

          師走相場の注意点

          好調な株式市場に盲点  金融市場では依然として、リスク資産に資金が戻る流れが続いている。  たとえば、世界の株式市場の多くをカバーするMSCI・ACWIは10月に続き、11月も前月比プラスで終わり可能性が高い(Chart 1)。セクターでは素材の戻りが大きく、工業、金融が続く。いずれも景気敏感セクターで景気の底入れを示唆しているかのようにみえる。  しかし、その次が公益、生活必需品である一方、一般消費財が最も冴えないことも踏まえると、株式市場が織り込む未来はそう単純ではなさ

          師走相場の注意点

          欧州エネルギー危機は過ぎ去った?

           ウクライナでの戦争は続いているが、天然ガスの先物価格(期近、オランダTTF)は年初来ピークとなった8月下旬の1MWhあたり337ユーロから11月には同100ユーロ程度まで大幅に下落。さすがに年初の1MWhあたり80ユーロ近辺までにはまだ距離があるが、欧州のエネルギー危機が峠を越えた可能性を示している(Chart 1)。  実際、EUの天然ガス貯蔵率(≒貯蔵施設に対する在庫率)は目標とした11月1日より2ヵ月も早い8月下旬の段階で80%を達成。直近11月11日時点では95.

          欧州エネルギー危機は過ぎ去った?

          米10月CPIが示唆したこと、しなかったこと

          米国のインフレ圧力は一巡へ  米10月CPIは総合が前月比+0.4%、コアが同+0.3%と市場予想(それぞれ同+0.6%、同+0.5%)を下回り、米国のインフレ圧力が一巡しつつある可能性を示唆した。  主な品目では、医療費が前月比-0.5%と16ヵ月ぶりのマイナスとなったうえ、その幅も1971年10月に並ぶ大きさだった。ただし、前回の落ち込みが10月だったことに象徴される通り、米国予算の新年度(10月スタート翌年9月終了)を跨いだ影響の可能性もあり、FRBの望む需要鈍化が

          米10月CPIが示唆したこと、しなかったこと

          FRBの利上げと金融市場(米国株編)

          前回の本欄で触れた通り、パウエルFRB議長は物価安定の目標達成のため、雇用の最大化が犠牲になるのも已む無しと考えている可能性が高い。そして、市場もその決意の強さの幾分かを感じ取ったと考えられる。 とはいえ、楽観的な見方は完全に消えたわけではなく、とくに先週の株式市場では再び楽観的な雰囲気が支配的となった。そうした楽観論を支える根拠は様々だが、なかでも1990年以降の4回の利上げ局面の米国株(S&P500)がいずれも、最初の利上げから3ヶ月程度は調整しやすい一方、1年後には当

          FRBの利上げと金融市場(米国株編)

          パウエルFRB議長の渾身のスピーチ

          タイトル通り、まさに「渾身」のスピーチであった。 「今日のスピーチは短く、焦点を絞り、直接的にメッセージを送るつもりだ」(筆者抄訳、以下同じ)という出だし。それをだけで、市場が「ハト派」を評価する隙を見せないという強い意気込みを感じる。 もちろん、その意気込みに相応しい中身であった。 「インフレを引き下げるためにはトレンドを下回る成長を続ける必要があるだろう。もっといえば、労働市場環境をいくらか軟化させる必要がありそうだ」。 そして何よりも、従来の「ソフトランディングは困

          パウエルFRB議長の渾身のスピーチ