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やさしいきもち
4月に似合わぬ暑さの日、電車を待つ私はホームでどら焼きを食べていた。あんこが甘いな、小腹満たしのミスチョイス。暑いしスーツ脱ぎたいし靴痛い、面接ヤダナァ、やるしかないけど。
もぐもぐもやもやしていたら、向かいのホームに電車がやってきた。その電車の中にベビーカーの2歳くらいの男の子がいて、窓の外を見ていたその子がこっちに向かってちっちゃい手を振りはじめた。
それが私に向かってのものだと気づいて、私が手を振りかえすと、男の子のもともとにこにこしてた顔がもっとにこにこになった。私の心にじわーっとあったかい気持ちが広がる。
そのやり取りに気づいたお母さんとも目が合って、お互い微笑みながら少し会釈をした。
電車が走り出した。
最後まで男の子は私に手を振っていて、私も見えなくなるまで手を振り続けた。
電車がいなくなったホーム、私の手には食べかけのどら焼き。
あったかい気持ちはまだ残っていて、さっきまでの鬱々した気持ちは自然と消えていた。
・
見ず知らずのおじさんに評価される毎日に嫌気がさしていた半年前。就活なんてクソ喰らえ、そう思いながらもその流れに巻き込まれるしかなかったのだよ。
自分の良さは自分が一番よく知っているのになと思いながら、足元ばっかり見つめて、先の見えない不安に押しつぶされそうな日もあった。
それでも、そんな毎日にぽっと光が灯る瞬間もあって、何気ない世界のちっちゃいできごとがよわっちい私のでっかいエネルギーになってた。
どんなに鬱々とした日々の中でも、世界のあかるいところに目を向けられるように。
世界はいつも変わらず美しくて、私の心がそれをどう見るかが全てなのだと思う。
少し先の未来に待っている新しい生活の中でも、それを忘れずにいたいなと思います。