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よそもの嫌いな右派、よそもの好きな左派【連載】人を右と左に分ける3つの価値観 ―進化心理学からの視座―

※本記事は連載で、全体の目次はこちらになります。第1回から読む方はこちらです。

 人間の本性を競争的なものと捉える右派が、自己の概念を国家や同じ民族、内集団まで広げることで愛国主義や自民族中心主義、部族主義が生まれます。
 第2章で、ヒトラーが世界を人種同士が覇権争いを繰り広げているゼロサム・ゲームの闘争の舞台であると捉えていましたが、このように国家や民族に対して進化論的な自然淘汰や適者生存のような競争的な考えを適用することで、自分と同じ側の人を応援する気持ち(内集団びいき)が生まれるのです。このような競争的な考え方では、「他国やよそものにも、自分たちより優れたものがある」ということはなかなか認めにくくなります。そのため、右派は他国の良いものを受け入れたり、よそものを認めることにどうしても抵抗があり、ゼノフォビア(よそもの嫌い)で内向きな自民族中心主義になりやすいのです。

 第1章で軽く触れましたが、「部族主義」という概念は、「自民族中心主義」「信心深さ」「性に対する不寛容」の3つから構成されています。これらは互いに関連し、右派ほどこれを支持する傾向にあります。右派はゼノフォビア(よそ者嫌い)なので、所属する集団の中から婚姻相手を選ぶ同族結婚が主流になりがちです。ヒトラーが劣った人種との交雑によってゲルマン民族の優秀性が劣化してしまうと考え、アーリア人の優秀性を維持、回復させるためには、「血の選別」を行わなければならないと考えていたことはこれを象徴するものでしょう。

 これに対して、左派は「ゼノフィリア(よそもの好き)」「世俗主義」「性に対する寛容さ」のような「非部族主義」的価値観を持っており、これらは言うまでもなく互いに関連しています。そのため、所属する集団よりも個人主義を重視し、外集団の価値も等しく見るため、外国のものを取り入れたり、外集団から婚姻相手を選ぶ族外結婚にも抵抗がありません。このように部族主義は、集団主義と個人主義、近親交配と遠親交配、愛国主義とコスモポリタニズムのバランスとも関連しています。
 第1章のRWAテストでは、このような自民族中心主義傾向を見るために、自国の旗や伝統を尊重する価値観を見る設問が用意されていました。

1.今日私たちの国で最悪の人々の一部は、私たちの旗を尊重しない人々であり、それは普通なら尊重されるべきだと思う。
2.高校や大学の学生たちは、慣習や伝統を批判することが奨励される*。

 最近の日本では、2021年に入ってから、右派政党の自民党の有志議員からなるグループが、日本の国旗(日章旗)を傷つける行為を罰する「国旗損壊罪」を新設するため、刑法改正案を国会に提出する方向で動いています。そのメンバーである高市早苗前総務相は、「諸外国では自国の国旗損壊に重い刑罰が科される。日本の名誉を守るには、外国国旗と日本国旗の損壊に関して同等の刑罰で対応することが重要」と主張しており、議員立法として国会での成立を目指しています。
 自民党は、野党だった2012年にも「国旗損壊罪」を新設しようと改正案を提出していますが、そのときは廃案になっています。この原因の一つは、日の丸に対する損壊行為も「表現の自由」の一つであり、国家に忠誠を尽くすかどうかも「思想良心の自由」に関わるため、国家を批判することが自由にできなくなると考えた左派の抵抗があったからです。
 国旗・国歌法が1999年に成立したときにも、左派は入学式や卒業式で、日の丸に向かって起立し君が代を歌うことを文科省などが求めたことに抵抗していましたが、これらも個人の自由を重んじる左派の個人主義と右派の愛国主義の対立が顕在化した事例と言えるでしょう。

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