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SaaSのNPSはただの顧客満足度ではない。ARR10億からはじめるNPSの正しいPDCA運用方法。

おはようございます。

SUPER STUDIOのCOOの花岡です。

SUPER STUDIOはSaaS×D2Cを軸に事業展開しておりますが、今日は法人向けECプラットフォーム「ecforce」のNPSのお話です。

ecforceのNPSは実績データとして7.84%という数値が出ております。

SaaS企業においてNPSは大事な指標の1つと認識されている一方で、新規契約件数、ARPUやチャーンレートのように足元の業績に直結しないこともあり、なんとなく運用している企業が意外に多いのではないでしょうか。

お恥ずかしながら僕たちもそうでしたが、とあることをキッカケにNPSを深堀りしていく機会があり、とてもおもしろい領域でしたので当記事ではNPSについて語っていきたいと思います。

当記事はBtoBのSaaSでNPSについてなんとなく運用している方や、必要性がいまいち腹落ちしていない方の参考に少しでもなれば幸いです。

書いていると長くなってしまいましたので、結論を最初にまとめておきます。

・NPSはサービスの健康状態を表している
・NPS単体はあくまでも結果にすぎず、大事なのは目的とペルソナを整理し、改善施策を実施できるような情報をアンケートを取得し、改善PDCAを運用すること。
・NPSのKPIは目的ごとに管掌組織がもつべき。
・NPSの運用タイミングはARR10億付近がおすすめで、競合環境が激しい場合には特に運用しておくべし。


NPSを深ぼることになったキッカケ

僕たちがNPSについて深ぼるキッカケとなったのは、とある取締役会での会話がキッカケでした。

出席者「そういえば、ecforceはNPSって取ってます?」

花岡「はい、取得しています。直近のアベレージだと7.84%程度という水準になっています。次期からKPIに追加する予定でした。」

出席者「え、めちゃくちゃ高くないですか?」

花岡「そうなんですか?」

・・・

と、このときの皆さんの反応が少し大げさかもしれませんが「そんな高いスコアあまり聞いたことがない」というような反応でした。

もちろんプロダクトにも、サポートの手厚さにも自信がありますし、ありがたいことにクライアント様からも称賛の声をいただくことが多い状態だったので、社内的には数値に大きな違和感を持っていない状態でした。しかし、多くのイケてる企業を見てきている皆さんが驚いているのを見て、ネガティブ思考の僕は自分たちが何か間違った運用をしているんじゃないかと猛烈に不安になりました。笑

僕もSaaSについて運営する中でリアルな情報を元に、かなり勉強していますが、経験上、イケてるSaaSであれば戦略の違いはあれど、重要KPIの数値はだいたい似たような数値になると考えており「異常値」があった場合にはデータの取得方法や、計算方法が根本的に間違っているケースが多いと考えています。

事実、弊社にはNPS運用の有識者はおらず、ググって出てきた情報を元に現場でもなんとなく運用しており、正しさの確信がない状態でした。

そこで、ALL STAR SaaS FUNDさんにSansanのカスタマーサクセスを統括されている山田ひさのりさんをご紹介いただき、NPSについて教えていただきました。


NPSとは

NPS(Net Promoter Score)についてはググると山のように情報が出てくると思いますので、教科書的な情報は割愛させていただきます。

NPSというのは顧客満足度を数値化したものです。当然ですが「NPS(顧客満足度)が一定以上下がる=チャーンレートが上がる」ということになりますので、重要な指標の1つです。

と、正論をいうのは簡単なのですが、実際のところSaaSにおいて特にARR10億以下の場合、NPSは取得する度、スコアはかなりブレますので、チャーンレートとの相関関係はなかなかでないというのが正直なところです。

また、相関関係が見えた頃には、チャーンレートも一定の水準に収束しているため、イマイチ実用的じゃないなというのが僕の当時の理解でした。


NPSの計算式

NPSではサービスの利用者にアンケートを取り、その項目の中で以下の究極質問を10段階評価してもらいます。

「あなたは○○サービスを友人や知人に、どの程度すすめたいと思いますか?」

 0-6点をつけた方を批判者、7-8点をつけた方を中立者、9-10点をつけた方を推奨者として分類し、推奨者の割合から批判者の割合を引いた数値が、NPSとなります。

※ecforceの7.84%というのは推奨者のほうが多いということになります。


上記のような計算式ですので、サービスにもよりますがARR10億以下だと顧客数もそこまで多くなく、アンケートの母数が多く取れない現実があるため、結果スコアがブレるというお話です。

また、NPSというのは基本的にマイナスが出やすい傾向にあります。特に日本人の特性としても、10段階評価を聞かれたときになんとなく「真ん中ぐらいの数字」を選ぶ傾向が強いため、特にマイナスがでやすいらしいです。

そのため単に「マイナスだから悪い」というわけではなく、同条件で計測した同業他社のNPSと見比べて、自社がどの程度なのかという評価をしていくことが大切になります。


つまり、NPSが下がるとチャーンリスクが上がるということはわかりつつも、厳密にはNPSとチャーンの相関関係がわからないし、サービスによってNPSの相場も違うため、いくら以下の水準になるとチャーンリスクがあるなども明確にない。

そのため、僕たちもなんとなくNPSが大事だとはわかりつつも、とりあえず計測し、結果に対して一喜一憂していたというのが実態でした。


NPSを取る目的は何なのか

なんとなくNPSを取得していた僕たちですが、有識者会議で山田さんから早々に指摘されたことは「NPSのアンケートを取得する目的がスコアを確認することになっていませんか?」というものでした。

確かにNPSは顧客満足度を数値化したものなので、スコアを確認することに重きを置いてしまっていたのですが、この会話で、NPS単体だとあくまでも顧客満足度の結果に過ぎず、何よりも大事なのは「顧客がなぜ満足しているのか?なぜ満足していないのか?」を特定することだということに気付かされました。

考えてみれば当たり前のことなのですが、チャーンレートも低く、NPSも問題ないと判断していたため、あまり深ぼって考えることができていませんでした。これが「業績直結ではないからなんとなく運用している」罠であり、意外に多くの企業がそうなっているのではないかと思います。


NPSの具体的な運用方法

では、具体的にNPSを用いて顧客の不満を特定するにはどのようにするかをお伝えしていきます。まず、NPSの計測の仕方として、アンケートを顧客に答えてもらうわけですが、NPSを計測するための質問に加えて、問題が特定できるような設問をいくつも用意し、NPSの結果と他の設問の結果の相関関係を分析することで、満足度が低い原因を特定します。

イメージは以下のような感じ。

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例えば、プロダクトに対する満足度調査を行うのであれば、上記のようにNPSがわかる設問と同時に、「機能Aについて満足していますか?」といったような具体的な設問を複数設置し、アンケートを実施します。

アンケート結果を分析することで、NPSが高いユーザは機能Aについて満足度が高く、低いユーザは満足度が低いと感じている傾向があるといった相関関係を確認していくことで改善箇所を特定していき、改善PDCAを運用するようなイメージです。※例なので雑ですが、本来機能Aの何を評価しているのかも聞けると良いかと思います。

これらをより具体的に進めていくための手順としては以下のような形になります。


①何に対する満足度を調査するのか目的を決める

基本的に、顧客満足度をあげていくためにSaaS企業ができることは「プロダクトを改善する」か「サポートを改善する」のいずれかに絞られると思います。

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そのため、アンケートを設計するために何に対する満足度を調査するのかを決めていきます。


②ペルソナを整理する。

プロダクトやサポートの品質を改善するという目的を決めても、プロダクトやサポートへの満足度はユーザの属性(以下、ペルソナ)によってバラバラです。
ペルソナの切りかたはサービスの特徴に依存すると思いますが、サービスによっては役職によって使われる機能がぜんぜん違うケースもありますし、ecforceであれば「マーケター」と「カスタマーサポート」といったロールで使われる機能が全く異なります。

サポートについても、ビジネスサイドとテックサイドで問い合わせの性質が異なるため、それぞれの満足度もぜんぜん違うものになっていると思います。

プロダクトやサポートの品質を改善するために、まずは利用者の属性、ペルソナを整理する必要があります。

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例えば、上記のようにサービスの特性上、役職でペルソナをわけるべきと判断するのであれば、役職ごとにプロダクトやサービスの使い方を整理します。ポイントはできるだけ具体的に細かく整理することで改善項目がより具体化されるのでおすすめです。


③ペルソナに対して、目的にあったアンケート設問を設計する。

ペルソナの整理の中で、対象のペルソナがどのような機能を利用しているのか、どのようなサポートを受けているのかなどを具体的に整理することで、どのペルソナに対して、どんなアンケートを取得すればいいのかがわかります。

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上記の例でいえば、ペルソナ「メンバー」は実務のみをやるため、マーケティング機能をメインで使っており、分析機能は使わないとなっています。

つまり、ペルソナ「メンバー」に対してプロダクトの満足度を改善することを目的にするのであれば、アンケートではマーケティング機能周りの具体的な設問を設置し、NPSとの相関性をみていくことになるということです。

こういう整理をした上でアンケート内容を設計していかなければ、せっかくユーザがアンケートに回答してくれても、NPSの結果はわかるけど、結局詳細がわからず、アンケート自体が意味のないものになってしまいます。

上記の例でいえば、ほとんどサポートに問い合わせることがないペルソナ「マネージャー」にサポートに関するアンケートを取っても意味がないということになります。


アンケートを設計する際のポイントとしては、相関性を確認するための設問は、より具体的であることが重要です。何に対して満足している、不満があるということを具体的に特定ができないと、改善を実施しようとした際にも仮設を含まざるえないため、改善しないリスクもあります。

ある意味、ここが腕の見せどころだと思います。


④アンケート結果を分析し、改善PDCAを実施する。

上記の通り、NPSと原因を特定するための設問のスコアの相関関係をみていきます。満足と感じてくれている顧客が何を評価しているのか、不満を感じている顧客は何を評価していないのか、それらを見ていき、改善を実施します。

例えば、サポートに満足している顧客と不満をもっている顧客で露骨にレスポンススピードに対する評価が異なっているのであれば、レスポンススピードに関するデータを調査し、改善した際にNPSがどう変化するのかなどを見ていくようなイメージです。



[補足]ペルソナのジャーニーを考慮し、アンケート取得タイミングを設計する。

ペルソナと目的を明確にした上で、取得タイミングについても重要になります。ただ、これもサービスの性質に依存するものとなります。

例えば、オンボーディングの質を取りたいのであれば、オンボーディング終了後に取得しないと意味がないですし、プロダクトを使い始めてから3ヶ月までのユーザと、それ以降のユーザで取りたいのであれば、取得タイミングごとにデータをわけて分析する必要があります。

目的に応じて、ここは考慮すべきポイントなのかなと思います。



NPSの変化を注意深く見なければいけない瞬間

個人的にはNPSはサービスの健康状態だと理解していますので、継続的に計測していき、常に変化に目を配っていくものだと思っています。

というのも、他記事でもご紹介していますがecforceがマーケティングを実施することで新規契約の獲得が急激に増えてきた際に、実は一時期カスタマーサポートの人員不足が一定期間ありました。

クライアントの方々にはご迷惑をおかけしてしまったのですが、その期間のNPSが明らかに下がっているということもデータで出ていました。

 NPS以外のデータでも検知はできていたのですが、サービスの健康状態を測るものさしになっているなぁということを実感できた瞬間でした。


他にも、特にNPSが変化しやすい以下のようなタイミングについてもしっかり、注意していくべきだと考えています。

①プロダクトに大幅なアップデートをかけたタイミング

管理画面のUIを大幅に変更したり、主要機能の仕様変更を実施するなどユーザにとって影響が大きい何かしらのアップデートを加えた場合は変更前後でNPSに変化があるはずです。


②サポートのオペレーションに大きな変化を加えたタイミング

サポート方法を変更するケースなどは要注意です。例えば、今まで電話を受け付けていたが、メールのみのサポートに切り替えるなどした場合にはNPSに大きな変化があるはずです。



NPSをKPIに持つのはどの組織か

弊社では、上記のような目的の深堀りを実施せず、なんとなく運用していた頃はNPSのKPIをカスタマーサポート組織がもっていました。

ただ、NPSの目的を定義することで、どの組織が持つべきKPIなのかが明確になりますよね。

プロダクトの質を改善することを主目的とするのであれば、プロダクトマネジメント組織が持つべきですし、サポートの質を改善するのであればカスタマーサポート組織が持つべきです。

ポイントとしてはNPSアンケートは課題を明確化するための手段であり、課題を直接的に解決できる部署が基本的には持たなければならないと考えています。

具体的に言うと、プロダクトの質を改善するためには課題となっている機能を特定するだけでなく、その機能について改善を目的とした開発を行う必要があります。開発マイルストーンの中でNPSから上がってきた要望の優先度をあげれるかどうかは、プロダクトマネジメントがそこに課題認識を持っているかどうかに依存します。なので、改善の実行権限を持っている組織が持たないと中々改善が進まないということがあると思います。

何を目的にするかで企業によって変わると思いますので、目的を明確にしたあと、どの組織がKPIとして持つべきかを定めると良いと思います。



NPSはいつからやるべきか

これについては会社の文化や、サービスやプロダクトの特性に依存するところが大きく、中々ハッキリとした答えはないです。

ただ、いろいろな方に聞いた話をまとめると、ざっくりARRが10億程度でているSaaS企業ではNPSの運用を行っている企業が多いそうです。

これはあくまでも目安だと思っており、正直、僕もプロダクトを開発している身ですし、サポートもやっていたのでわかりますが、小規模な頃はお客様が満足しているかどうかはお客様をサポートしていれば肌感覚でわかります。また、プロダクトを称賛してくれているかどうかも、お客様とコミュニケーションを取ることである程度わかります。

しかし、規模が大きくなることで、サポートについては現場感である程度把握できても、プロダクトの機能が複雑化してくるとプロダクトの質についてどう思われているのかが、だんだん解像度が下がっていくことがあります。

顧客がどう思っているかに対する解像度が低くなってきたかもと感じたら、NPSを活用するサインだと思います。


ただ、1点明確な観点があるとすると、プロダクトの競合環境は注意したほうがいいと思います。


競合プロダクトがほとんど存在しないマーケットでサービス展開しているのであれば、リアルな話ですが、多少満足度が低くても顧客はそのサービスを使い続けるしかありません。

そのため、明確な課題がないのであれば、NPSを気にするタイミングは少しあとでも良いと思いますが、競合プロダクトが多数いるマーケットでは、満足度の低下から他社プロダクトに乗り換えられてしまうリスクが高いと思いますので十分気をつけていくべきかなと思います。


さいごに

冒頭にもまとめを記載しておきましたが、改めて書くと。

・NPSはサービスの健康状態を表している
・NPS単体はあくまでも結果にすぎず、大事なのは目的とペルソナを整理し、改善施策を実施できるような情報をアンケートを取得し、改善PDCAを運用すること。
・NPSのKPIは目的ごとに管掌組織がもつべき。
・NPSの運用タイミングはARR10億付近がおすすめで、競合環境が激しい場合には特に運用しておくべし。

という感じでした。


サービスの健康状態を測る指標の1つに過ぎませんが、弊社ではNPSを含めたさまざまな指標を取り入れながら、メンバー一同、サービス(プロダクト、サポート)の品質向上にこれからも尽力していこうと思います。


NPSは、業績に直結しないがゆえに、なんとなく運用されているケースが多いのかなと思いますが、NPSが一線を越えるとチャーンレートが増加するという関係にあることは間違いないと考えていますので、やはりSaaSの中でも重要なKPIとして位置づけされていくのだと改めて感じました。

NPSをKPIにもっている方々の参考に少しでもなれば幸いです。


最後までお読みいただきありがとうございました。

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