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自分の不幸は飯の種~2024年4月に読んだ本から

読んだ本を忘れないため、毎月、印象に残った本 を 記事にしている。
4月は3冊。


1 世界でいちばん透きとおった物語 杉井 光

この本を手にとる前、多くの
「何を言ってもネタバレになる」
「これは紙の本にしかできない」
との感想を目にした。

ストーリーを ひと言でいうなら、「僕」が、女癖の悪かった父親の遺稿「世界でいちばん透きとおった物語」を探す物語。

遺稿を探すため、ほとんど接点のなかった父親の知り合いを訪ねていく僕。

この後どうなるだろうと、おもしろくてなかなか中断できない話だったのだが、終盤、「それ」に気づいた時、「おおおおすごい!こんな風になっていたのか!」と驚き、あわてて今まで読んだページを見直した。

確かにこれは、紙の本じゃなきゃできない。すごい労力がかかった作品だったと思う。

2 山口恵以子のめしのせ食堂  山口 恵以子


舞台は、「めしのせ食堂エコ」。
この店のメニューは、ガスで炊いたご飯と2種類の味噌汁。そしてお取り寄せの《ご飯のおとも》、お酒少々。

ふりかけ、海の幸、お肉、佃煮。全国各地の実在のおいしい「ごはんのおとも」が登場。
文章だけでもおいしそうなのに、その上、カラー写真も載っているので、
「ううう食べたい」。
思わず、お取り寄せしちゃおうかとHPを調べてしまう。

あっ!「おいしそう」だからだけで、この本を今月の本に取りあげたのではない。

このワンフレーズが心に残ったから。

「人の不幸は蜜の味、自分の不幸は飯の種」

おかみが、小説家をめざす常連さんに言った言葉。
彼は、また賞をとれなかったのだ。

小説家を志すかぎり、あなたの人生に失敗はないわ。良い経験も悪い経験も全部ネタ。それに悪い経験の方がネタとしてはずっと濃いわよ。

遅くに小説家デビューをした作者だからこその言葉かとも思う。

小説家という職業にとって、自分のどんな体験も(それが不幸なものであったとしても)、作品に深みを増す元となるのだろうなあ。

3 スクラッチ  歌代 さく

時は2020年。
総体が中止になったバレー部の鈴音、出展するはずだった展覧会がなくなった美術部の千暁かずあき。二人とも中学3年生。

がまんを強いられたこの何年間が、子どもたちの大切なものを どれだけうばってきたのだろうかということを あらためて気づかされた作品。

楽しみにしていたこと、がんばってきたこと、今、その時期にしかできない大切な体験ができなかった子たちの やりきれなさ、つらさがびしびしと伝わってきた。

千暁かずあきは、洪水被害を受け、引っ越してきたという経験を持っている。
避難所で暮らしていたとき、表情がなくなってしまった母親が、久しぶりに笑顔を見せたのは、当時小4の千暁かずあきが描いたたんぽぽの絵を見たときだ。
それが千暁かずあきをしばることにもなる。

自分の絵が、墨で汚れたことをきっかけに、スクラッチ技法で作品を完成させることにした千暁かずあき
千暁かずあきが、自分のからをやぶって 黒いキャンバスをけずっていく場面は、壮観だ。

千暁かずあきの家族はみんな、洪水で心に重いものをかかえて何年も必死で生きてきた。
千暁かずあきの絵をきっかけに家族で初めて洪水のことを話す。
父親が言った。
「よくやったよ俺たち。母さんも 千暁かずあきも がんばってきた」
とても心に残る場面だ。

美術部顧問の仙ちゃん先生は、お世辞にも「しっかりした」や「頼りになる」という形容詞はつかない人物。でも、大事な言葉を子どもにわたせるし、後ろからささえることもできる。
きちんと子どもを守れる「大人」が登場していることが、とても嬉しい。


「図書カードネクストって、ネットでも使えるの!」
と、驚いたのは、ついひと月前ほどのことだ。

現在、図書カードをけっこう所有している。
ここ数年間でめっきり外出しなくなり、使わなくなったバスの回数券を換金し、それで図書カードを購入していたのだ。
これで たくさん本を買えると ほくほくしていた。
(自分で図書カードを買ったのだから、お金を出すのと変わりないはずなのに、嬉しくなってしまうのはなぜだろう。)

amazonでは使えないが、楽天ブックスは、いつの間にか図書カードで支払いができるようになっていた。支払う際、カードの番号とカードに記載されている暗証番号を入力するとオーケーだという。

カードの裏に、番号や、黒いけずりとるところがついていたのは、気づいていた。そういえば、スマホのゲームで課金するとき、コンビニでカードを買ってその番号を入力していたっけ。それと同じ理屈だと点と点が結びつく。

世の中って、知らないうちにとっても進んでいるのね。


読んでいただき ありがとうございました。