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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第五章「法隆寺燃ゆ」 後編 16

 打ち合わせは、以前の本家で集まった時とほとんど一緒だったのだが、昨夜はより具体的であった。

 やはり薬狩りの後の宴席で、葛城大王が大友皇子を大兄にするということは確実で、それではこちらも、その場で改新を起こしてやろうじゃないかと細かい段取りを決めた。

 宴席に入れるのは氏族のみ、お付きは入れない。

 武器も持ち込めない。

 他の氏族からすれば丸裸にされたも同然だが、もとより大伴氏は武人の家柄である。

 武器がなくとも戦える。

 むしろ、ほかの氏族が武器を持たないことで好都合だ。

 宴席の半ば、葛城大王が大友皇子を大兄にすると宣言したら、大海人皇子は祝いと称して槍の舞を踊る。

 大伴氏も相伴すると舎人たちから武器を受け取り、皇子とともに舞い踊る。

 頃合いを見て、大海人皇子が大友皇子を「下賤のものが皇位を狙った」として誅殺する。

 大伴氏は一挙にその場を制圧し、葛城大王を「神代よりの理を変えようとした大罪である」と退位を迫る。

 葛城大王を強制に退位させ、その場で大海人皇子が新大王として即位し、「宮を飛鳥へ戻す」と宣言する。

 そして、大伴馬来田、吹負兄弟を大臣として大伴氏を中心とする新飛鳥派の政権を構築する。

 いわば、大化の改新の二番煎じをやろうというのである。

 詳細が決まった後、馬来田たちは『完璧な策じゃ』と自画自賛していたが、安麻呂は本当に上手くいくのだろうかと半信半疑である。

 というよりも、そんな血なまぐさい現場、できれば遠慮したいのだが………………

 ―― 妹の八重子が疲れたといって宴席を遠慮したが、私も遠慮すればよかった。

 安麻呂は、ほっと溜息を吐く。

「おい、葛城大王だぞ」

 兄に注意され、はっと我に返って頭を下げる。

 目の前を葛城大王が過ぎていく。

 ちらっと見上げる。

 目元の鋭い、見るものを威圧するような眼光である。

 ―― この人に強制退位を迫るのか………………無理なんじゃないか?

 倭大后が続き、そのあとに大友皇子が妃である十市皇女を連れて入ってくる。

 順番でいけば大海人皇子のはずだ。

 やはり大友皇子を「大兄」にするという話は本当のようだ。

 そのあとは葛城大王の皇子や皇女が続き、それが終わってようやく大海人皇子が妃の讃良皇女とともに入ってきた。

 大海人皇子の様子を見て、安麻呂は不安になった。

 顔が少し紅い。

 ちょっと足元も覚束ないようだし、目も若干すわっているような感じがする。

 もしかして、もう酒が入っているのか?

 ちらっと兄を見ると、御行も少々不安げな眼差しで大海人皇子の背中を追っていた。

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