【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第三章「皇女たちの憂鬱」 中編 15
11月3日、留守官、蘇我赤兄の下に中大兄から書状が届く。
「蘇我殿、書状の内容は?」
大石が尋ねた。
赤兄は、しばらく考えてから大石と薬に内容を告げた。
「中大兄から、有間皇子を捕縛せよとのことだ。罪状は、こちらで適当に考えるように……だそうだ」
大石と薬は顔を見合わせた。
―― まさか、罪なき人間を捕縛するわけにもいかない。
赤兄も、如何にすべきか考えていた。
確かに、有間皇子が何らかの行動は取るであろう情報はつかんでいた。
が、決定的な証拠がない。
幾らなんでも、証拠なしで有間皇子を咎める訳にもいかない。
しかし、ここで有間皇子の目を摘んでおけば、中大兄の未来 ―― ひいては蘇我の未来は安泰である。
赤兄は………………動いた!