【歴史・時代小説】『縁切寺御始末書』 その三 おりつの一件始末 5
おりつの実父勝五郎が、組頭の伝兵衛(でんべい)に連れられてやってきたのは、3日後のことである。
つるつるの頭に、げっそりと痩せた男であったが、目だけは異様に鋭く、こんな若造に取調べを受けるのかという反抗心がありありと読み取れた。
惣太郎が、おりつの言うことに間違いはないかと問い質すと、勝五郎は間違いないとぶっきら棒に答えた。
その態度に聊かむっとしたので、
「では、なぜおりつを追い返したのです」
と、責めるような口調で訊いた。
勝五郎は、ちっと舌打ちをした。
「なぜって、そりゃ、もう娘じゃないからですよ」
「娘ではないって、おりつは間違いなくその方の娘でしょう」
「向こうの嫁になったら、向こうの娘ですよ。うちとは一切縁が切れるんです」
確かに、世間一般ではそういう。
「しかしです、娘も実の父を頼って家に帰ってきたんです。それを無碍に追い出すこともないでしょう」
勝五郎は、煩そうにため息を吐く。
「一度嫁いだら、もう娘じゃないんですよ。それに、あっちのおっかさんに責められるからって、そんなことでぐらいで帰ってくるんじゃねぇって。うちの女房なんざ、お袋が死ぬまでいびられてましたぜ。それでも、姑を本当の親と思って、従ってきたんだ。むかしの女はみんなそうでした。それを今日日の女ときたら……」
「まあ、それは分からないでもありませんが……、しかし、おりつには耐えられなかったのでしょう。特に、子ができぬといびられ、その上、妾まで作られたのですから」
「妾ぐらいでなんですか。金持ちの男のなら、妾のひとりやふたりは当たり前でしょうが。それに、子ができぬのは、おりつが悪いんですよ」
「子ができないのは、女の罪と言うのですか」
「男が生むわけじゃございませんからね。しっかし、うちの女房は馬鹿みたいに、ぽんぽんぽんぽん子を生みやがるのに、なんで、そのがきのおりつには子ができねぇだ、全く」
酷く女子どもを馬鹿にしたような言い方だ。この男に、女にかける情というものはないのだろうか。
「兎も角、こっちは離縁なんて真っ平御免ですから。いまさら戻られても困るんですよ」
「なぜです。自分の娘が戻ってくるんですよ」
「だから、娘じゃねぇんだよ。それに、うちにはまだ片付かないがきどもがいるんだ。いまも女房の腹が膨らんで、春にもひとり増えるんだよ。これ以上、食い扶持を増やされちゃ大変なんだよ」
いちいち棘のある言い方だ。
むっとした表情で勝五郎を見ていると、
「あんた、子どもは? 嫁はいるのか?」
と尋ねてきた。
否と答える。
すると男は鼻で笑った。
「嫁もいねぇがきに、何が分かるんだ」
と、唾とともに吐き捨てた。
表に出ると、よっぽど顔に出ていたのか、清次郎が肩をぽんと叩き、
「立木殿、冷静に、冷静に」
と、諭した。
「はい、すみません。少し頭を冷やしてきます」