【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第二章「性愛の山」 32
「泣いてるんか?」
おみよが覗き込んでいた。
涙を見られたくはなかったが、拭うこともしなかった。
代わりに、おみよが拭ってくれた。
「大丈夫や、うちがついてるから、心配いらん」
そう言うと、彼女は権太の筵に入り込み、顔を胸に押し当てるようにして抱きかかえた。
幾分肌蹴た襟元から、浅黒い谷間が見える。
女の甘い匂いと饐えたような汗の臭いが入り混じった、噎せ返るような香りが鼻孔をつく。
女の身体は、柔らかい。
抱きしめられていると、心が落ち着いてくる。
不思議だ