【連載】龍城ケ丘問題 何が問題なのか 第1回「崩壊する民主主義と不可解な議会運営委員会」
(【連載】「龍城ケ丘問題 何が問題なのか」の連載先はこちらに変更になりました。)
令和6(2024)年6月18日(火)に行われた議会運営員会での内容「4 請願・陳情の受理及び付託について」において、豊かな海と暮らす平塚市民の会による第1号請願が取り上げられた。今回は、その時に起きた不可解な出来事について取り上げる。(市民の会第1号請願不当採決問題)
市民の会の請願内容と議会運営委員会の大まかな流れ
請願内容
以上から、本請願は、「当事業計画を再検討」と「計画再検討の過程に住民を参加」の二点を求めていることが確認できる。
注釈:「伐採が樹林帯とその周辺の動植物にもたらす影響が考慮されておらず、自然への配慮に欠ける計画」について。同年6月1日に、平塚市長出席のもと平塚市立花水公民館で行われた「湘南海岸公園龍城ケ丘ゾーン整備・管理運営事業 花水地区にお住まいの方を対象とした説明会」において、市みどり公園・水辺課による計画策定に先立つ環境アセスメントの不実施が露呈した。
用語紹介
・湘南海岸公園龍城ヶ丘ゾーン整備・管理運営事業
2013年頃から平塚市が提唱・実施の為に活動してきた事業。平塚市龍城ケ丘の龍城ケ丘プール跡地とその東側の樹林帯地域を開発場所とする。2017年に東側の樹林帯(通称:龍城ケ丘樹林帯)の伐採が計画に盛り込まれてから、市民による樹林帯保護活動・伐採反対運動が展開され続けている。Park-PFI制度により、積水ハウスが龍城ケ丘ゾーン整備後の公園管理者となる。担当課は「みどり公園・水辺課」。
・Park-PFI制度
日本語で、公募設置管理制度という。公園の魅力や利便性の向上を図るため、公園の管理や整備を行う民間事業者を公募し選定する制度。同じPFI方式では、ツタヤ図書館問題や都立高校図書館での「都立高校偽装請負事件」などが取り沙汰されている。
・江口ともこ
平塚市議会議員。湘南地域の地域政党「無党派党」代表で、会派「しらさぎ無所属クラブ」の代表でもある。会派代表として議会運営委員会に参加し、その委員も務める。
・片倉章博
平塚市議会議員で、自由民主党党員。自民党系である会派「清風クラブ」に所属し、その会派代表として議会運営委員会に参加し、その委員を務める。
・秋澤雅久
平塚市議会議員で公明党党員。公明党の会派「公明ひらつか」で代表を務める。会派代表として議会運営委員会に参加し、その委員を務める。
・山原栄一
平塚市議会議員。立憲民主党系の会派「湘南フォーラム」の代表を務める。議会運営委員会では副委員長を務める。
・諸伏清児
平塚市議会議員。会派「清風クラブ」の代表を務めている。議会運営委員会の委員長。
・みどり公園・水辺課
市立公園などを管轄する平塚市の担当課。「湘南海岸公園龍城ヶ丘ゾーン整備・管理運営事業」の実施担当課でもある。
(敬称略)
議会運営委員会の動き
この請願に対して議会局は、本請願は都市建設常任委員会へ付託している「議案第46号、第48号、第49号及び議案第50号」への「反対する趣旨であると思われ」るから、担当「委員会へは付託せず、直接最終日の本会議に上程し、(中略)みなし採択」による請願処理方法を提示した。
この請願処理方法に会派「しらさぎ無所属クラブ」の江口ともこ議員は疑問を呈した。江口議員曰く、
・議案第46号「平塚市都市公園条例の一部を改正する条例」は、エントランス棟の下部に造るスペースをコンビニエンスストアとして使うときの使用料月20万円の設定について
・議案第48号「特定公園施設等譲渡契約の締結について」は、積水ハウスと平塚市長が15億6000万円で造ったものを譲り受けるときに、買い上げる金額について契約をしているもの
・議案第49号「指定管理者の指定について」は、積水ハウス株式会社等と契約を結んで、それを指定管理者に指定をしていくというもの
・議案第50号「都市公園を設置すべき区域の決定について」は、都市公園を設置すべき区域を決めているもの
であるから、「請願者の方が望んでいるのは、議案と関係がない」として、請願者は「実施協定の締結を延期してほしいと言っているんです。都市建設常任委員会で付託されるのは、実施協定の締結については付託をされません。また、請願事項2点目ですが、計画再検討の過程に住民を参加させてほしいということについても、議案とは何ら関係がありません。」と述べた。また、「都市建設常任委員会で付託をしていくべきだというふうに考えます」「議案と請願事項がずれておりますので、都市建設常任委員会できちんと綿密に請願についても審議をするべき」であると結論付けた。
江口議員は「議案と請願事項がずれておりますので、都市建設常任委員会できちんと綿密に請願についても審議をするべきだというふうに考えますが、皆さんの御見解をお聞きしたいというふうに思います。」と述べ、各会派代表者が回答する。
【片倉委員】清風クラブとしましては、今、江口委員が提案をされたという認識の内容も理解をしました。ただ、先例集を含めて事務局との検討をされた中で、正副委員長、また、正副議長のほうでも確認を取られているという認識を持っておりますので、今言った請願を都市建設常任委員会のほうで審査をするべきではなくて、最終日の賛否をもって判断をすればよろしいかと思っております。
【秋澤委員】公明ひらつかとしても、先ほどの事務局提案のとおり行っていけばいいのかなというふうに思っております。以上です。
【山原委員】副委員長という立場ですけれども、湘南フォーラムといたしましても、この件につきましては、みなしという取扱いでよろしいという理解をしております。以上です。
と回答した。
不可解な動議発動と曖昧な回答
重ねて江口議員が、「議案とのずれについてどのような見解をお持ちなのか、委員の皆様に御意見と、また、見解をお聞きしたいと思います。」と回答を求めた。
【片倉委員】江口委員のほうから、再度各会派、委員の皆さんに御意見ということで求められましたが、先ほど言っている状況は変わらないと思いますので、もし江口委員さんがどうしても都市建設常任委員会のほうでこの請願に対しての採択を求めるということであれば、議会運営委員会の中で請願に対してどうするかということを議決して、議会運営委員会を閉じたらどうですか。(江口委員「議決。どういうこと」と述ぶ)上げるか上げないかという議決。今、動議を上げた。
【諸伏委員長】動議。(片倉委員「動議を上げた。議決を、ここで賛否を採って、しっかりして、やるかやらないか決めたほうがいい。意見を聞いていても、ずっと同じだもん」と述ぶ)ちょっと待ってください。(「なに、動議出したの」と述ぶ者あり)(片倉委員「そう、動議だよ」と述ぶ)(江口委員「何の動議ですか」と述ぶ)(片倉委員「意見は同じだから」と述ぶ)(傍聴席で発言する者あり)すみません、少し休憩を取らせてください。暫時休憩を取ります。
(9分間の休憩)
【諸伏委員長】片倉委員からの御発言の趣旨が分からなかったもので、休憩を取らせていただきました。
【片倉委員】先例集の第9章、請願及び陳情の「4、議案に反対する請願については、本来請願になじまないが、提出要件を具備していれば受理する。この場合、委員会へは付託せず、直接本会議に上程する。」、「5、提案された議案に直接関係する請願は、議案の議決結果による『みなす』扱いとすることを例とする」ということが記載をされて」いるから、「私は動議をかけて、」「みなす結果で議案付託をしないということでよろしいんじゃないか
【諸伏委員長】ただいま片倉委員より、請願第1号について、本会議最終日のみなす採択の方法を取られることを求める動議が提出されました。よって、本動議を直ちに議題とし、採決とします。
お諮りします。本動議のとおり決定することに御異議ありませんか。
(「反対」「異議なし」と呼ぶ者あり)
(江口委員「前提がおかしいですよ。議案に反対するものじゃないんですよ」と述ぶ)
【諸伏委員長】江口委員、今、動議が出されたんです。(「動議」と述ぶ者あり)(片倉委員「議案として動議を上げた」と述ぶ)
【江口委員】言論を封じ込めるために動議を度々使うというのは、非常に問題だと思います。御準備がよろしいようで、先例集をお持ちですが、先ほどおっしゃっておられた、議案に反対するものは請願としてなじまないと言いますが、議案に反対するものではないんです。ですので、片倉委員がおっしゃった動議の前提が崩れていますので、この動議について撤回を求めます。
【諸伏委員長】待ってくださいね。異議がありますので、これより起立により採決します。片倉委員が出された本動議に賛成の委員の起立を求めます。(「数でやるんですか」「ちゃんと話し合ってほしいですよ」「動議ばっかりになる」と述ぶ者あり)
〔賛成者起立〕
【諸伏委員長】よって、賛成多数ですので、片倉委員が求めた本動議は可決されました。
請願第1号については、事務局説明のとおり、本会議最終日において、みなす採択の方法を取られるということで決定いたしました。
議会運営委員会での不可解な出来事まとめ
第一の不可解な点 「議案とのズレ」に対する曖昧な回答
第一の疑問点は、賛成側の曖昧な回答であった。請願者が求めていることは、「当事業計画を再検討」と「計画再検討の過程に住民を参加」させる事であった。江口議員は、第1号請願をみなし採択するのは議案とのズレが大きく不適切ということで、「議案とのズレについて、どういう見解をお持ちなのか」と各会派代表者に質問した。しかし、清風クラブの片倉議員が述べた内容は、先例集の朗読と「みなす結果で議案付託をしない」であり、質問内容との「ズレ」が見受けられた。このまま採決の動議によって、他会派代表者の意見を聞くことが出来ずに、賛成3反対1により、請願は委員会で審議されることなく本会議に付託された。各会派代表者の返答が、江口議員の質問趣旨から外れていると、筆者を含む、議会運営委員会を傍聴した市民数名が感じました。
第二の不可解な点 動議の発動理由
第二の疑問点は、動議の発動理由である。片倉議員の発動した動議の内容は、第1号請願を本会議においてみなし採択にするか「賛否を採」ることであり、その理由は「意見を聞いていても、ずっと同じだ」からであった。明らかにおかしい動議であったと言わざるを得ない。動議の発動前に江口議員が求めていたのは「議案とのズレについて、どういう見解をお持ちなのか」という問いであり、片倉議員の述べる「先ほど言っている状況は変わらない」(=強引に議論の終着点を変えようとしてる)というものではなかった。従って、この動議を発動するほどの緊急性はなく、この動議が議論の停滞を招いたと言わざるをを得ない。
第三の不可解な点 採決の正当性
前述の通り、江口議員の質問に対する片倉議員の動議理由は、明らかに論理性を欠如していると判断できる。そのため、「片倉委員がおっしゃった動議の前提が崩れて」いるため、正当な動議ではなかったと結論付けられる。また、明らかな議案と請願のズレを、強引に「請願は議案に対する反対意見」とした前提も崩れているため、ほぼ確実に不当な採決であり、正当性は存在しないと思われる。
まとめ
結論として、
・「請願と議案とのズレ」は存在した
・動議の前提が崩れており、撤回されるべきだった
・採決には正当性がない
の三点がほぼ確実と言えるだろう。これは、平塚市議会における議論を主軸とした民主主義の崩壊であるだろうし、「計画の見直し」=「計画への反対者」という硬直した考えがもたらした悲劇ともいえるだろう。このことから、現在の湘南海岸公園龍城ヶ丘ゾーン整備・管理運営事業は、議会運営委員会において不当な手続きを踏んだ事業計画であるとも言い換えることが出来る。更に、「市民に選ばれた議員」を他の議員が軽視するという間接的な住民軽視も浮き彫りになった。また、請願者の意図を考えず、不当な採決を行ったことから、直接の住民軽視といえるかもしれない。住民自治の観点から、本計画は早急に見直されるべきだ。
参考資料:平塚市議会 議会運営委員会議事録
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