VRという空き地の缶蹴り、またはケイドロ。論じずに、遊べ。
数年前に一度会ったことのある、ぴちきょとおちゅーんさんとOculus Questで昨晩遊んだ。待望の日だった。なぜなら僕はぴちきょさんの投稿をこの1〜2年読んでいて、特にVRに関して「この人は僕のお師匠さまだ!」と勝手に思っていたからだ。僕は一度VRの可能性について言語化してみたかった。なので前置きが長くなったけど、今回だけはぴちきょさんをお師匠と呼ばせてもらいたい。そしてVR中の写真や動画は一切使わないでVRの素晴らしさを言語化してみたい。少し長くなるけど、多分あなたの日常にとって良い何かをもたらす話だと信じてるのでお付き合いいただきたい。
まずエンタテイメントには外発的エンタメと内発的エンタメがある。
みんなが知ってるVRは外発的エンタメ。何枚かの写真と動画を用意すれば好きな人ならイチコロだ。スリルはあるし、キラキラしてるし、空も飛べる気、別の惑星にだっていける。実際、僕は一昨日のZoomで15人中6人にOculus Quest2(37,800円)をポチらせた。僕の得意技はネット通販なのだ。本当に良いものならその場にいる1/3の人にポチらせる自信がある。
でもそんな「乗り物に乗せてわーきゃー」なんてのはどうでもいいのだ。「やれるからやっとけ、すげーたのしいぞー!」と言っておく。これだけで買う価値ある。でも大事なのはそこじゃない。
お師匠は、約束の時間に15分遅れてきた。その間、僕はVRChatというチャットアプリの中の入口のソファーに座ってFacebookメッセンジャーで遅れてくる師匠に「大丈夫 !ゆっくりどうぞ」って返事してた。師匠は仕事場から自宅への電車の乗り換えに失敗したらしい。僕のために駅の構内を走ってくれたんだろう。師匠は僕が何度もVRChatの面白さが分からないから、今回は「迎えに行くよ」って言ってくれたのだ。ありがたい。ああ、なんかドキドキする。
師匠と再会したのは、桜が舞う廃墟だった。上から水が落ちてきていて滝になっている。ダンジョンの1番下まで降りていくと窓の外には水没した都市があり、そこでは無数の魚が泳いでいた。「綺麗だね」「このワールドは誰かが愛だけでつくったんだよ!もちろん無償でね」。
ここには無数のワールドがあって、ワールド作家さんたちがみんなを喜ばせようと、いろんな遊び場をつくって無償で公開してる。僕らは満開の桜の廃墟の中で追い上げっこをして、1番上から滝に飛び降りたりした。初めてそこで会ったミヤさんがこのワールドの遊び方を教えてくれた。
「ねえ、次、ちょっと怖いところいつまでみようか」と師匠がヌメヌメとした異世界に通じるポータルを出す。「みんなーこっちきてー。トモヤスさん中に入って」、師匠は優しい。
次のワールドはアトラクションだった。薄暗いシャッターがガコガコと上がるとそこには体育館ほどの広さの中に鉄の板が何枚もあって、その上を歩くようになっていた。鉄の板はよろめいて、崩壊する。するとビル15階くらいの高さから落ちて、最後は溶岩で死ぬ。板の上に3分立っていられたら勝ち。僕らは何回か死にながら最後は僕が勝った!鉄の板はグラグラするのだけど、ところどころ濡れていて、そこに行くと転びそうでめちゃくちゃそういうディテールが怖かった。
「ねえ、もうちょっと時間ある?しりとりする?」え?こんな生死を試すような次に将棋?遠くから「トモヤスさーん、自分かは落ちて死んでー、そしたら将棋やろー!」と叫び声が聞こえる。僕は溶岩の中に飛び込んだ。
次のワールドは日本人のワールド作家がつくった金沢駅だった。金沢駅のターミナルに8個くらい将棋盤が並んでいて僕らはそこで金沢の謎の将棋遊びをした。ミヤさんはVRゴーグルとコントローラを使わずにPCから参加してたから、駒がうまくひっくり返せなくて、そのたびに師匠はかわりにひっくり返してあげてる。すっごくめんどくさいのに毎回毎回やってあげる。手持ちの駒が僕らから見えないように手で塞いたりもしてる。なんて優しいんだ。師匠の旦那さんのおちゅーんさんが何かおやつを取りに行ってる時も急かしたりせず待っていた。
たわいもない話、ルール説明、バグを回避方法、アバターの変え方、何曜日の何時が集まりやすい、今度紹介したい友だちの話。次のワールドではしりとりをしながら、いろんな話をした。お互い何歳なんだろう?師匠夫婦の世代はリアルで会ったから知ってるけど、それ以外は声でしか判断できない。ていうか、誰一人人間の姿してないしな。
師匠は言う。
人間関係こそが全てなのだと。
マルチプラットフォーム、マルチデバイスで、それらの境界線を軽々と超えていくのが未来なのだと。ゲームやプラットフォームに遊ばれるようなものではない。師匠夫婦はVRフレンドとガチのリアルなキャンプ(ちゃんと一泊するし食べる、念のために言うけど本物のキャンプだ)もするし、打ち合わせもリアルカフェもあればVR空間のときもある。
だから礼儀も大切になってくる。むしろリアル世界よりも人柄がわかりやすい。だって言葉なら嘘をいくらでもつけるけど、VRでは物理的に「迎えに行く」「待ってる」「手を貸してあげる」という面倒くささがある。知らんぷりだってできちゃう。でも師匠はずっと僕に説明し続け、うまく置けない将棋のコマを並べ直して、そして何より今日の約束のために駅で走ってくれたんだ。「ねえ、ハワイ時間の金曜の夕方なら、日本も西海岸の人も時間会うから、今度はトモヤスさんの友だちも連れてきてよ。お互いに紹介して、遊ぼう!」。僕のすっごく近くまで謎の妖精が寄ってきて息遣いまで伝わりそうでドキドキする。360度サウンドだから、相手がどのくらいの距離なのか分かる。この近さを体感して欲しくて、師匠はわざとグイッと寄ってきてくれたのだ、多分。
最後は木登りをした。大きな大きな樹。30階建くらいありそう。両手で登っていく。汗が滲んできた。1番上まで行くとキャンプファイヤーがあるらしくて、そこで僕はみんなにお礼が言いたかった。どんな景色が見えるのか知りたかった。
でもタイムオーバー。さ、もうZoomミーティングに行かないと。僕は樹から手を離して地面に向かって落下していった。
最後に師匠は手を振りながら「ねえ、サムさんが来たらいいと思うの。ここでみんなで遊ぼうよ。足がそんなに自由にならなくても、ここなら駆け回れるし。あと平野さんの友だちのおじいちゃんもね!」。
今夜一緒に遊んだおちゅーんさん、師匠、ミヤさんが幻想的な空中庭園の巨大な樹の下で手を振ってくれていた。僕は左手のコントローラーでログオフした。ホームに戻るといつもの山小屋だった。さらにゴーグルを外すと、懐かしい僕の部屋だった。頭の圧迫感からは解放されてスッキリしていたけど、この部屋は一人だった。水をごくごくと飲みながら放心状態だった。
感想は「いい人達だったな」だった。
たいしたことはしてない。空き地で空き缶と棒切れで遊んだようなものだ。
でも…。でも僕は思うのだ。
空き地で缶蹴りをやっているのを側から見た時「ああ、なるほど、そういうゲームですか」と分かるのは当たり前のことだ。じゃああの頃僕らは「缶蹴り」をするために集まっていたのか?全然違う。僕らは放課後になると毎日毎日集まって、どんどん新しい遊びを考えて、退屈するとまた昔の遊びを始めたりして、とにかく放課後を過ごしていた。それを「空き地のポテンシャルがー」とか「缶の可能性がー」とかハードウェアやソフトウェア的側面から語るなら、どんなに難しい頭の良い言葉を駆使していようとも、そいつはただの馬鹿だ。
VRやXRの新規性?スケール?知ったことか。
たしかに誰かが開発しなきゃいかないからそれへのリスペクトはあるけど、その周りで小難しい話を展開してる奴らなど知ったことか!と思った。
空き地には空き地の人間関係があり、たわいもないやりとりでも、それこそが日常の本質だったりする。僕は昨晩、優しい3人に出会った。今週末はきっとたくさんの人と出会う。そのうちの何人かとは年末に日本で会うことになるだろう。もしかしたらその中の数名は老後まで付き合うことになるかも知れない。そんなこと分からない。打算なんてゼロの世界だから、仕事のように誰と付き合うと得とか損とかそんな計算成り立たない。
何やってるんでもいいわ。とにかくいつものメンバーで遊ぼうぜ!新しいやつが来るのも楽しみだ!
…これこそが内発的エンタテイメントだ。外発的なやつは相手なんていなくてもいいし、カキワレでしかないんだってことがよく分かった。
とにかく誘ってくれて、ありがとう。
ぴちきょさんとやりとりしてなかったら、僕はこう言う初め方は出来なかったと思う。
Pay it forward だから、次は僕が友だちを案内して連れてくるからまた遊ぼう!特にシニア、おじいちゃん、おばあちゃん。目への負担は考えないといけないけど、年齢関係なく遊びたいわ〜。
じゃあまた週末にね!論じずに、遊べ!
◎お師匠作紹介ビデオ
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参加型社会学会・ 深呼吸学部「ZoomとVR 旅芸人の一座」
さまざまな私塾がネットワークされたYAMI大学。橘川幸夫が学部長の「深呼吸学部」もその一つです。深呼吸学部の下の特別学科の一つが「旅芸人の…
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