#4.地域レポートを共有しよう【地域ボードゲームをつくろう!】
第4回目の「地域ボードゲームをつくろう!」ガイダンスです。このプロジェクトは、愛知県の名古屋大学博物館でボランティアをする大学生たちが地元に根差した「地域ボードゲーム」の開発に挑戦していきます。
各回の内容はこちらのマガジンにまとめています。
主催:愛知建築士会 名古屋名南支部
協力:MusaForum(名古屋大学博物館 学生スタッフ団体)
協力:いたばしの地域ボードゲーム会
今回は、学生の皆さんに前々回(#2)の課題として取り組んでもらってきた地域リサーチ結果を共有してもらいます。その上で、チームごとのテーマ決定に向けて、議論の助けとなりそうな話題を届けました。
また、#1でふれた「学びの手段としてわざわざゲーム化するなら、座学とは違うどんな意味を持たせるのか」という点を考え、深く考えずにスゴロクを作るといった「安易なゲーム化」にならないよう観点を提供しました。
以下にスライドの一部を抜粋しつつ、実施したガイダンス内容をまとめていきます。
1. 教えて!みんなの地域レポート
みなさんのレポート内容を本人に紹介してもらいました。地域に出て感じたこと、気づいたことなどの共有をお願いしました。
レポートは事前にPDFで出してもらったほか、ガイダンス当日にオンライン参加できない方には動画でレポート紹介をしてもらいました。Youtubeの動画とかで1人トークを見る機会多いんですかね? 今の若者はしゃべるのが上手だなーと感心しました。
この発表では「実際にゲームルールに落とし込めるか?」みたいなことは後回しで、まずは地域にふれた経験を共有してもらいます。
レポートの1つでは、地域のスポットを取材した学生が「あそこでまったり遊べるボードゲームを作れたら楽しそう」と感想を書いてくれました。そう、課題解決にとらわれず、思いっきりエンタメ寄りの地域ボードゲームも全然アリです。
もともと「地域に課題見つけ、解決を考え、それをゲームで表現する」みたいなことは難易度が高い。難易度が高いからそっち方向を望む人向けに丁寧に解説しています。
が、相変わらず「エンタメとしての地域ネタを扱い、地域交流を促進できる時点で価値はある」という観点も見失わないようにしたいところ。それが地域ボードゲームの良さで。地域ネタのゲーム会、本当に楽しいから!
今回のリサーチで改めて「地域って楽しい」と少しでも感じられたなら、そこがまず大きな成果だなと思っています。
2. 地域ボードゲームには何ができる?
さて、ここからはテーマ決定に役立ちそうな観点を整理していきます。まずは課題解決などをボードゲームにすると関心を持ってもらいやすい、集客しやすいってポイントに目が向きますよね。では、集客的な観点だと、そもそも地域ボードゲームって、市販のボードゲーム、シリアスボードゲームと何が違うんだっけというのを復習しておきます。
結論は、人目を惹くフック(ひっかかり)が増え、最大母数は小さくなるってこと。商売としてスケールさせたい場合は別ですが、もともと地域規模で交流を促したい場合は、メリットの方が大きい。このフックの増加を最大限活かしましょう。集客の段階ではテーマについても、地域性についても、どんどんアピールしていくことを忘れずに。
地域の課題解決にボードゲームを用いるとき、集客以外も強みはあるでしょうか。もう一歩広い視点からも強みを考えてみます。
実際に遊んでもらうことができれば、貴重な体験や、座学にない学びみたいなところでもボードゲームの良さを活かせるかもしれませんね。
ここで「座学にない学び」って部分は、ちょっぴり掘り下げてみようと思います。それは、ボードゲームを作る過程では「どんな体験がいいか」を問うヒントになるし、最終的にはそのゲームを遊ぶことの「セールポイント」として訴求しやすくなるでしょうから。
3. ゲームを通じて誰に何を届ける?
では、ボードゲームが提供できるさまざまな体験のうち「学び」ってことに注目すると、座学の学びとはどんな差別化ができるでしょうか。ここは#1でも少しふれましたね。
ボードゲームを通じて、地域の話題や課題について何かを持ち帰ってもらおう。その「学び」を、ゲーム制作という手間のかかる手段で意味する理由は何でしょうか。もしも「座学にない学び」をボードゲームに持たせることができるとしたら、それはどんな学びでしょうか。
あくまで経験則や想像になりますが、いろいろ並べてみます。
ここに並べた8種類どれか1つに学びを必ずカテゴライズできるよねって話ではなく、いずれも併用されうるイメージです。きっとこれ以外にも学び体験を出せるだろうと思います。
ボードゲームの中でどういう学びを発揮したらその「価値」を語りやすいか。設計としても、セールスとしても、考えるヒントになれば幸いです。
最後に、学び要素のあるボードゲームを考えようとなったとき、ついつい作ってしまう学びのボドゲ3タイプについてまとめました。ここに挙げたスゴロク、カルタ、アイデア投票を中心に設計したボードゲームに共通するのは「めっちゃ作りやすいこと」です。
本来、作りやすいことはメリットであり、この3つが決してダメなのではありません。制作が目標としているゲーム体験と、これら3つのゲーム構造がマッチしていれば何も問題なく、超素晴らしいと思います。
でも作りやすいという特性のため、ついうっかり手を出してしまうことも。
たとえば、スゴロクの盤面にイベントマスを作り、そこにテーマに沿った学習内容を書いたもの。それをプレイヤーにもらさず読んでほしいからと「必ず止まるマス」とし、数々のイベントを強制体験させると、もはやスゴロクはただの作業となってしまいますよね。
カルタでは、どのような遊びと学びの効果がありそうか。「百人一首」のように参加者が教養としてインストール済みの情報を扱わない場合、どう学ぶ仕組みになっているか。「座学を楽しく演出した方がいいのでは?」と言われない要素を確立できているか、考える余地はありそうです。
採用すればゲームデザインの作業見通しがよくなるからこそ、採用する前にじっくり検討しよう。そこだけ強調しておきました。
4. 今回の作品テーマを話し合おう
今回の地域リサーチの目的は、実際に地域へ接点を持つことで「地域の人たち」というイメージの解像度を上げていくことが目的です。
ゲームに扱うテーマは、チームのリサーチした中から決めなくてもかまいませんので、話し合って決めていきましょう。
ここでは「何のために、だれに、何を届けるか」という観点で、それぞれの要素に対していろんな事例をスライドに挙げてみました。実際に話し合うときに観点を広げる素材となればいいなと思います。
3つの観点に共通する最大のポイントは、各項目はただ1つにしぼりこもうということです。願望レベルで考えるとターゲットも「みんなに来てほしい!」みたいになりがち。そうではなく、むしろ「どんな人が来てくれない場合はあまり意味がない」と言えるのか。もっとも中核となる目的、ターゲット、体験を話し合ってもらうことが大切です。
ちなみに、この3つをしっかり議論しても、ボードゲームのルールは1つも決定していません。そこに不安を覚える人がいるかもしれませんが、ご安心を。この3つが定まると、無限に広がるゲームルールの海に「ビジョン」というブイが浮かび、有限の探索範囲が照らし出されます。
たとえば、ターゲットが「親子」に定まってしまうと、そのボードゲームは子どもと大人が一緒に遊べなくてはいけません。それだけで心理戦や推論よりも、ジェンガのような物理的なしかけや、スゴロクのような運任せの仕組みが重視されます。あるいは親子協力でルールが非対称なら、親側だけ推論が必要といった工夫もあり得ますが、いずれにせよ、ターゲットだけでもルールには強烈な枠組みが作られてしまうわけです。
チームごとに行ってもらう、テーマを決める話し合いは、次回までの期間に進めてもらいつつも、次回ガイダンスでも少し話し合う形で、じっくり進めてもらいます。
大切なのはチームメンバーの「納得感」です。初制作となるこのガイダンスで自分にとって100%を出し切る必要はありません。全員がベストと感じる結論が難しければ、1人だけベストとなるものを選ばず、全員がベターであるものをしっかりつかみましょう。地域ボードゲームでは、地域性、ゲームデザイン、ビジュアルデザイン、広報戦略、いろんなタイプの興味関心が必要になるからこそ互いの異なるモチベーションを大切にしましょう。
5. 今日の話題で大切なことは?
本日のキーワードは「想像しよう」です。実際に地域の方たちに会って話を聞いてきたことで、地域の人たちとボードゲームで遊ぶという風景もイメージしやすくなったはず。
自分たちが作るゲームでどんな体験を生み出すのか。そこに「正解」というものが用意されていないからこそ、具体的な風景を想像し、仲間と共有することがとても大切です。
今回は本当に、みなさんの発表がすばらしかった。地域を楽しみ、それぞれに何かを発見してもらえた感じが、とても嬉しかったです。
次回は、チームごとの話し合いを促進しつつ、今回論じた「テーマ決定とゲームルールの関わり方」の部分を掘り下げ、検討のヒントになる情報を提供したいと思います。
(参考)使用したスライドなど
ガイダンス当日に使用したスライド全体です。
▼全編スライド
▼音声リハーサル
ガイダンスを実施する前に、スライド未完成の状態で、仲間内での音声リハーサルを実施&収録しています。ガイダンス当日とは話した内容がちょいちょい変わっていたりしますが、ご興味があれば、こちらも合わせてどうぞ。
板橋区内に、レーザーカッターや3Dプリンターを使って何かを作ったり届けたりしています。また、そうした道具を使える人を増やしたいという思いで、講座などもちょいちょい開催しています。サポートいただけた場合は、こうした機材費や会場費などに利用させていただきます。