まさとうの平飼い養鶏
おめでとうございます。
まさとうがNoteに記事を書き始めて、2年目になりました。・・・
これから日々の管理、飼料、疾病などの中身について書いてゆくつもりでおります。
今回は、まず概要的なお話です。以前に調理師専門学校で発表した事があり、その時の内容が適当と思いますので、原稿に加筆修正して掲載します。
発表に呼ばれたのは、「開業塾」と銘打った講義コースです。
大手食品会社や金融機関の協賛で、店舗経営を真剣に検討されている方が参加されているとの事でした。
発表テーマは「生産者の思い」でしたが、今後に生かして頂けたらという思いで、恥ずかしながら会社勤めの時の勘違いや、事業が続けられなくなった経験を加えてお話ししました。
発表開始
皆様こんにちは
「平飼い」という方法で養鶏をしております、まさとうと申します。
時間も限られていますので、早速はじめます。
こちらが生産場所の様子です。鶏小屋の事を鶏舎と呼びます。これが外観。
こちらが内部です。中は2部屋に仕切ってあります。一部屋当り200羽まで入りますが、現状150羽で飼育しています。
内部設備としてエサ桶・給水器がありまして、こちらがネストと呼ばれる巣箱です。鶏は狭い所・暗い所で卵を産みたがる習性がありますので、卵を産みたくなったら自分でネストの好きな場所を選んで産みます。
産まれた卵はトレーに転がり出てきますので、ローカ側から集める事が出来ます。
集めた卵は自前の直売所や配達等で販売しております。
これが私の養鶏の全体像です。
次に、私が農業を始めたキッカケやその思いについてですけれども、30歳の手前まで機械部品の営業マンをしておりました。
会社員ですので組織に属していた訳ですけれども、組織と言うのは、その組織が持っている能力によって出来る事とできない事があります。できない事をやってはいけませんし、できる事をやっていく。そこまでは当然ですが、当時はバブルが弾けたばかりで会社も余裕がありませんでした。
部署の組み換えや人事異動が繰り返されて、上司が毎年変わりました。
上司と一緒に方針も変わりました。
ある上司は、カタログ商品のように効率の良い商品を売れと言いました。
お客さんから「寸法をチョッと変えてくれ」「昔のアレを調べて欲しい」と言われても「そんな事に対応しても儲けにならない」「手間隙かけるな効率の良い仕事をしろ」と言われ続けます。
自分としては「チョッとの事だし、出来るんだからヤッてあげれば良いのに」という思いになります。
次の上司は「俺たちは仕事を選べるような立場じゃないんだよ。獲れる仕事は全部獲ってこい」と言いました。
でも、大量ロットの見積もり案件をつかんで帰ると「こういうのは家庭向け製品なんかの量産ラインを持っているメーカーの仕事だよ。うち向きじゃない。」と言われました。
「今までやったことが無い分野へ挑戦しろ」と言った上司には、プラント用の特殊案件をつかんで帰ると「こんな特殊な仕様に対応する能力なんて無いんだよ」とシカられました。
挙げてゆけばキリがありませんが、そういう事が続くと最早、契約が取れるとか取れないとかよりも、見積もりを依頼してくださった担当者にウソをついているような気分になります。
そうして考えた事は2つ、自分が早く出世してそういう事に対応できる会社にするか、あるいは飛び出して好き勝手にするか。
自分は後者を選びました。
本当ならば自分の見立ての甘さと、話の持って行き方のつたなさを反省すべきでしたが、視野が狭く実力も無い自分には分かりません。
お客さんの思いを実現してあげたい、要望に応えたい
この思いを実現するには
「経営と生産と販売の距離が近くないと、農業こそそれだ」と考えました。
今から考えると大変に甘いですが、当時はそう考えたんです。
ところで皆さん、永田農法という農法をご存知ですか?この農法で作ったトマトと、あと徳谷の塩トマトというのがありまして、この2つが現在の高糖度・フルーツトマトの源流だろうと考えられます。
農業をすると決めて、一番最初に頭に浮かんだのがこの永田農法です。
最初はトマトを作ろうと考えていました。永田農法というのはトマトだけではなく、色々な生産者がそれぞれ好きな野菜を作っておりまして、そういった野菜をまとめて流通させる会社が静岡県の三ケ日にあります。この農法を始めた方の息子さんが社長をされてまして、その社長に会いに行きました。
そして「トマトを作りたいんです。研修できる生産者を紹介して下さい。」
とお願いしたのですが「生産者はいくらでも紹介できるけど、農業全体を眺めた上で自分にあった経営に練り直そう」と仰って、色んな話をして下さいました。
その中でこんな話があったんです。これは分かり易くパターン化した「お話」ですので、ここに当てはまらない農家はたくさんあります。
右方向に売り上げ、上方向に負荷です。負荷は労働でも金銭的な負荷でも何でも当てはまります。
大体500万円稼ぐ位までの農家は、好きな野菜を色々作って宅配とか直売所出荷とかで「楽しい農業」を展開している。ただし儲からない。
かたや1000万円以上稼ぐ農家は、広い土地を確保して設備投資をして、少ない種類の野菜を大量に作って市場出荷している。
これは「大変だけど、儲かる農業」。
農業経営してゆくのなら、どちらかを選びなさい。
間違っても中途半端はいけない、ここはやったわりに儲けもそこそこ。
何の為に働いているか分からない「苦しい農業」。これでは続かないと。
「向原という山間の土地を考え、顧客の要望に応えたいという思いを考えたら、楽しい農業の方だろう。その中で利益を上げてゆくのは、付加価値の高い農産物とか、その加工品とかを直売してゆくのが良さそうだ。
そういう目でもう一度、産地や直売所を見て歩きなさい。」と教わります。
そうして色々な産地を訪問する中で、平飼い養鶏家が自前の直売所で卵を販売している所に出くわして、社長と話して研修を受ける事になったんです。半年間の研修の後に、平飼い養鶏を始めます。
しかし、この時点ではまだ腕自慢の農業とでも言いますか、鶏にエサを詰め込むように食べさせて、色をつけた卵を沢山産ませて「どうだすごいだろ」みたいな農業でした。
それでもテレビ・ラジオ・新聞で取上げられ、調子よく売れました。
でも、開業して3年後に直売所用地に道路が通る事になり、立ち退きになりました。
地主さんは土地が売れたとホクホクされていましたが、借りてるこちらはイヤもオウもありません。ついでに補償もありません。
農場は残ったものの、売る場所が無くなるので休業せざるを得ませんでした。
「ただで転んでたまるか、何かつかんで復活しちゃるわい」
休業を機会にもう一度勉強し直そうと思い、庄原の是松町にある農業大学校に入学します。
園芸コースを選択し、もともと作りたかった野菜について学びました。
この農業大学校在学中に転機が2つあります。
一つは「低い水ポテンシャルによる果実品質の向上」という、40年くらい前の論文を読んだ事。これは簡単に言うと、水や肥料を抑えて栽培すると果実に含まれるアミノ酸や糖度などが向上するよ、という話。
先ほどの永田農法や徳谷トマトを理屈で説明できる研究です。
もう一つは牛乳なのですが、農業大学校は園芸の他に花・果物・乳牛・肉牛のコースがあって、牛がいるんです。
折に触れて、牛舎の掃除や子牛の分娩などを手伝っていました。
ある時ふと、就農前の産地訪問で低温殺菌牛乳の生産者から「温度をかけて殺菌するとたんぱく質が変質して味が変わってしまう、無殺菌の牛乳はアッサリ・サッパリなんだ」という話を聞いていたことを思い出します。
大学校では早朝に搾乳をしておりましたので、絞りたての無殺菌の牛乳があります。許可されてないので味見程度ですが、飲んでみたら「うすい」と感じました。だけど体に馴染む感じがして、喉ガラミしないし、後味がスッキリしていた。
「こういうことか」と感じて、そこから今の飼育方針にかわります。
農業大学校を卒業後、ふたたび養鶏の再開です。
詰め込む事を止めてムリをさせない
必要最低限であとは放っておく
手抜きに聞こえるかもしれませんが、これを実現するためには理論を備え、データをとりながらの根拠を持った管理が必要です。
こうしたらこうなった、と言う事を表面的な現象だけで捉えた経験値。
つまり感覚に頼る管理は、再現性に疑問が残ります。
もしかしたら、見えていない原因によって導かれた結果かもしれません。
本当は条件が変わっているのに、気づくことも出来ず、思った成果が得られないかもしれない。
生き物の体の中で起こる反応は複雑です。試験管の中のように、純粋な条件で単純な反応を得るのとはわけが違います。
この状態に一番大きな影響を与えている条件は何だろう?
根拠があれば変化した条件に対して修正がかけられるので、最低限を守りつつ必要を損なう事は無くなります。
実際には、膨大な試行錯誤と失敗が必要です。
そうした後にようやく、余計な作業がなくなり始めます。
鶏とはどんな生き物なのか? この娘達はいま何を必要としているのか?
大学校卒業後は、そのことを考え続ける飼育に変わりました。
一番の気づきは、鶏にとって最大のストレスは「産卵」だ、という事です。
それを卵から見る事ができます。
鶏には品種ごとにマニュアルがあります。
マニュアル通りの飼育をすると、この成績・卵の数が出せますと言う指標があります。
現在の鶏は産まれて120日位すると卵を産み始めて、一気に全員が産みあがるように育種、いわゆる品種改良がなされています。その為にピークで大量に産卵をして、その代償として時間と共に生み疲れて成績が落ちます。
このグラフは産卵率を表したものです。
黒い線が指標、ピンクの線がまさとうの成績。
少しゆっくり産み始めてもらい、ピークの山は作らず、その代わり後半も一定のペースで生んでもらう。トータルの生産量も抑え目です。
卵の重さです。黒い線が指標で、ピンクの線がまさとうの成績。
卵が通るたびに産道が開いてゆくので、産卵するほど卵は大きくなります。
世の中の規格では62g以上がLとされてますので、ウチは小玉生産です。
でも鶏にかかる負担が少ない分、卵の質は維持してくれます。
こういった管理をする為に重要なのがエサになりますが、エクセルを使って配合割合を決めております。
それぞれの飼料原料にどれ位の栄養素が含まれ、それをどの割合で配合するかを決めます。食べさせる量を決めると、1羽あたりに与える栄養素を計画できるというプログラムです。入手性や価格を考慮して微調整も出来ます。
カロリーは産卵率に、アミノ酸は卵重に影響するので、そこで制御します。
一見すると複雑そうですが、それぞれの原料が主に担ってくれる役割がありますので、それを目安にします。
そうして出た成績を毎日記録にとったノートです。次の管理に反映させております。
最後に、本日は「白い卵」という触れこみで紹介されておりますが、わたくし自身は黄身の色が濃い薄いにこだわりはありません。
このように飼料に色素や特定成分を加えれば、そういった卵は作れます。
私も昔は赤色と黄色を混ぜてオレンジ色の卵を作っていました。でも、色素は鶏のための栄養ではないので、エサではありません。
採卵業者である前に、養鶏家でありたいと思っています。
余計なことはしない。
ご清聴ありがとうございました
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