【読書】スクラップ・アンド・ビルド
著者:羽田圭介
要介護の祖父と同居する20代後半の男性が、祖父が「死にたい」と口にすることを受けて、苦痛と恐怖のない尊厳死を実現させるために日々様々な工夫と努力を続ける物語です。
男性は同居する母とともに祖父の痴呆と体力の回復を目指して、自律的行動を起こせるようにと我慢強く介護をおこなってきました。しかし、この方法では介護をする人の負担が大きく、母と主人公は「祖父が死んだならばどれだけ楽な事か」と考えるようになります。
加えて祖父が口にする「死にたい」という言葉を聞いた男性は、友人に相談をした結果、足し算の介護を提案されました。これは、被介護者の生活を最大限手伝うというもので、それにより被介護者は頭脳も肉体も最低限の負担で生活を送ることができるようになりますが、使われなくなった器官は衰え、苦痛も恐怖もない尊厳死に向かっていくという話です。
男性はこの提案に賛同し、ストイックなまでに徹底的に足し算の介護を行うようになっていきます。
男性は冷静な分析と論理的な思考を得意とする性格で、ある種冷たさのようなものを感じる性格になっています。
その上で、自身の行う足し算の介護を「優しくさしのべる一挙手一投足が、祖父のシナプスを切断した。」と表現し、一方で街中で見かけた老婆に対するヘルパーの手厚い介護を「自分が楽をしたいからなんでも手伝う」と呼び、これらは表面的にやっていることは同じでも異なるものであると分析して不愉快になっているシーンは、いかにもこの男性らしさが現れており、とても印象的でした。
優しさや思いやりの正体とは何か?それは誰のためのものなのか?ということを突きつけられるような一冊でした。
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