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【読書】爪と目

著者:藤野可織

感情の一部が欠落したかのような思想・思考を持つ人物の物語が3つ収録された作品です。最もボリュームのある作品が本の名前にもなっている”爪と目”でした。

“爪と目”は、幼少期に母を亡くした女の子が、父と共に同棲している女性を日々観察して感じたことを語り続けていく話です。

女の子は3歳の幼稚園児でありながらも考え方や言葉遣いが不自然なほどに成熟しているため、一見するとこの話は大人になった女の子が過去を回想しているものなのかとも取れました。しかし、この点について具体的なことは一切触れられておらず、最後まで時系列は明かされません。
また、同棲している女性は実は不倫関係であり、その女性は父だけでなくその娘にも全く興味を示さず無関心であるため、全体を通して感情を感じることのできない文章で語られておりました。

母が亡くなった理由、父の性格や仕事、また、最後のシーンで描かれた女の子と女性の心理などのような、確信につながる描写がことごとく描写されておりません。加えて登場人物たちのお互いに対する異様なまでの無関心ぶりも相まって、最後までとても不気味な雰囲気が漂う作品でした。

残りの2作も同じような作風で描かれており、本作は一般的にはホラーと分類されているようですが、一目見て「これはホラーだ」と分かりやすく認識できるシーンはどこにもありませんでした。
一方で、読者が勝手にホラー作品だと思い込んでしまうような世界観が本作の特徴であり、作品の内容ではなく、勝手に不気味なことを想像してしまう自分に恐怖を感じる一冊でした。

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