血の筋/赤片亜美
壊された家で隠れていた古い下着姿のような壁面
ふと消えた電気 夜とは暗いものスマホ探さず君のにおいを
潔癖の病に罹る母が来て僕のベッドで背合わせねむる
猫なんか捨ててきなさい我が家には畜生にやるご飯はないの
知っている海老じゃなかったあの色は茹でられ変化した色だった
父さんが死にかけた時見た夢はばあちゃんが布団かけ直してくれた夢
自らが潰した家に乗ったまま夜を迎えた重機の見る夢
髪の先から次々と落ちてゆくしずくわたしの代わりに泣いて
花束をくれた友達 ラッピング姿のままで飾る 復讐
切り花は嫌いと言って野の花を摘んでは生ける人の子供だ
唇を噛んで血がつく 肉まんの豚は血抜きをされる前に殺され
この辻でいっぱい人が死んだのね神の削れた鼻にキッスを
動いてるいきものがいる腹の中張った皮から突き破れ殻
0時過ぎだあれもいない商店街赤信号で待つわたしたち
連続で線香花火に火を点けてそれを繰り返すような人生
「おまえなんか誰からも愛されてない」愛されてないきっとあなたも
死ぬなよと言うなよ、死にてえんだから死なせてやれよなんて言うなよ
泣き叫ぶ子供の住まうアパートが燃える夢見てひらいた右手
怒鳴り声響く汚れたベランダのスカルの鉢に生える緑髪
夜歩くあなたの影が可愛くて留めておきたいから踏んだ鬼
はずかしくてはしたなくってきたなくてきもちよくなることって、これか、
コンビニの横のタバコ屋のばばあがホースで何か洗う真夜中
私以外目にせぬからだ風呂の窓開けて浴びせる月光、見てよ
仲良しのあの子が本当は嫌い愛されてるのがずるい タダで
貴方との誓い破って離婚する両親に罰を与えよ神よ
チャーハンを作ってくれる人がいいチャーハンだけは作ってた、パパ
動物の図鑑で知ったマンドリルこわくて泣いたひわいで泣いた
この橋は渡るべからず その向こうで生きてきた人と共に生きてく
誰一人傷つけず生きるなんてできない裂いてひり出たいのちのわたし
赤い汁垂れて生きてる事を知るそのためだけに血は鮮やかに
(2020に詠んだ連作を推敲したものです)