釜山国際映画祭ACFMに参加しました
釜山国際映画祭のACFMに参加して来ました。ACFMというのは「Asian Contents & Film Market」の略で、映画業界の人がそこでいろいろな商取引をするマーケットになります。企画をプレゼンしてお金を集めたり、完成した映画を売ったり、国際共同制作のパートナーを探したりなどなど。
私はVIPOのブースでACFMに参加したのです。VIPOというのは「Visual Industry Promotion Organization」の略で、日本名は「映像産業振興機構」です。日本のコンテンツ業界の発展をサポートする団体です。
私はVIPOが募集していた「ACFMの参加募集」に応募して選ばれての参加でした。参加するメリットは商談にVIPOのブースを使えることがメインですが、会場内のブースを居場所に出来るというのは本当に良かったです。ACFMの会場では座る場所すらままなりませんから。
私が持っていった企画は親友の画家である石田徹也くんの映画です。まだ脚本開発段階なんですが、資金集めという名目で参加したのです。
少し時間は遡りますが、VIPOのACFMに選ばれると事前にトレーニングがあります。こういう場でのプレゼンテーションの事をピッチと言いますが、そのピッチで使う原稿やビジュアル資料の指導をしてもらえます。映画のピッチにはいわゆる「型」というものがあり、その解説と指導をしてもらえるんです。
1つ目は「ピッチ原稿」と言って、映画の内容や映画の売りなど、ピッチを聞きに来た人の興味を引き付ける原稿です。2つ目は「ピッチデック」というパワーポイントやPDFで作ったビジュアル資料です。
私は仕事として広告のプレゼン資料を作ることもあるので、完全にナメてかかっていましたが、映画のピッチの型を聞いて目からウロコと小骨と胸ビレが落ちました。私が最初に作ったピッチ原稿やピッチデックは単なる情報で、私が伝えたいことをキレイにデザインしているだけだったんです。
ピッチで必要なのは情報ではあるんですが、50%ぐらい「エモ」を混ぜ込むんです。作品で感動させる前に企画書でも感動させる必要があるんです。だから、この作品を作る意義や情熱を語らなければなりません。広告のプレゼンではそこまでやると暑苦しいのでやらないんですよね。日本人同士ですし。
50%ぐらいエモを混ぜつつ4分ぐらいで伝え切る必要があります。必要最小限の情報と強烈なエモをコンパクトにまとめるんです。完全にコピーライター的な能力が必要とされる作業だと思いました。
そうやって準備したピッチ原稿を持って釜山に行ったのです。
私たちのチームは株式会社ダッシュのプロデューサーの勝俣さん、英語通訳の渡辺さん、韓国語通訳のヨンアさん、鉄砲玉の新谷さんというメンバーでした。みなさんダッシュの方々です。新谷さんは直接この映画には関係ないのですが、鉄砲玉としてのその突破力を買われて参加したのです。本当はダッシュの俳優のマネージャーです。
ピッチをする相手は、事前に自分たちでアポを取る必要があります。ACFMに登録するとACFMに来る人の一覧を見ることが出来ます。その中から自分たちの求めている人にメールを出してアポを取るんです。
でも、厳選してコンタクトを取っても会ってくれる可能性は低いと聞いていたので、800通ぐらいのメールを出しました。そこからアポが取れたのは10人ぐらいです。
当初、監督が直接英語でピッチした方が情熱が伝わるという作戦で、私がピッチ原稿を読んでピッチしました。何よりも映画のテーマが私の親友の話なので、絶対に私がピッチした方がいいんです。でも、英語を読み上げているので手応えがありません。「ああ…英語が伝わってないかも知れない…発音が聞き取れてないかも知れない…」などという不安も伝わったのかも知れません。
一方で、日本人の方にピッチ原稿もピッチデックも使わずに、情熱だけで話したらメチャクチャ伝わった感触がありました。この先、私はその情熱が伝わるように英語でピッチが出来るようになろうと決意したのです。
私が持っていった『TETSUYA』という企画は、割と興味を持ってもらえた気がします。面白い絵を描く世界的な画家というテーマと、それを親友が監督するというストーリーと、映画自体をちょっと新しい手法で表現するからです。
これが「20年前に家を出ていった父親が突然家に帰ってきた」みたいな企画だとなかなか大変だと思います。「そういう映画は世の中にたくさんあるけど、今あなたがこれを作る意義と必要性は何なのか?」なんて聞かれたらアワアワしてしまいます。「意義なんかねえよ!作りたいから作るんだよ!」と言いたいところですが、それだと「お金を出そう」って言ってくれませんからね。
昼間はACFMのマーケット会場にずっといて、夜はいろいろな国がやっているパーティに行きます。ACFMでの出会いも貴重でしたが、パーティでの出会いはそれ以上のものがありました。パーティで出会った人にもすかさず映画のポストカードを渡して説明しました。パーティの場合は30秒で簡潔に伝える必要があります。
私のチームは英語話者と韓国語話者がいて最強なんです。そこに誰彼構わず声をかける新谷さんがいますから。猫がヤモリをくわえて持ってくるかのように、ものすごい数の人を新谷さんは連れてきました。場が整ったところでボスの勝俣さんが登場するというシステムは最強でした。
ACFMの後半にはダッシュの社長の小暮さんも釜山に来ました。小暮さんに現場の空気感を感じて頂いて本当に良かったです。こういうのはレポートでは伝わらないものがありますからね。映画制作はスパンが長く、熱意と意義を感じて頂く必要もありますので。
そして釜山が最高なのはご飯です。海鮮が名物なんですが、何を食べても美味しかったです。
そして毎日、店のTERRAを飲み干してしまうんじゃないかというレベルでビールを飲んでました。
まだまだ書き切れないことがたくさんありますが、ACFMに参加したレポートとして書いてみました。若者にとっては本当に貴重な体験になりますし、私のような中年にとっても得るものがたくさんある機会でした。
中年になると頑固になってしまい、こういう若者用のプロジェクトに素直に参加できないかも知れませんが、絶対に参加した方がいいと思います。中年は経験値がありますから、ブーストがかかると若者の比ではない収穫があると思います。
まあでも「中年が参加するとああでもないこうでもないとうるさいから若者というワードを入れてるんです」と、今回とは別のプロジェクトの人が言っていて、まあそうなんだろうなというのも頷けます。
今回のACFMへの参加で、映画に関する刺激をたくさんもらったんですが、人生に対する考え方も変わりました。本当に冷静に考えて、今こそ自分のスタンスを大きく変えないとダメなんだろうなと思ったんです。今までのやり方をして行ったらフェードアウトしていくだけだなと。割と人生の岐路に立っている感覚です。
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