「SUPER HAPPY FOREVER」は面白い構造の映画。不親切なような、親切なような。
「SUPER HAPPY FOREVER」五十嵐耕平監督
【新宿武蔵野館にかかる映画は、そんなにハズレがない、気がする】
ほぼ、何も知らずに観た映画。
五十嵐監督の他の作品も観ていないし、俳優陣も知らない方ばかり。
でも、新宿武蔵野館で上映される作品には、
そんなにハズレがない、という成功体験(?)もあります。
「なんか、良いらしい」
という噂も、どこかで聞いたような記憶も。
「型破りな教室」を観ようと思って、武蔵野館に行ったら、
こちらの方が時間がピタリ。
「じゃあ、こっちを選んでみるか」
くらいな感じでの出会いでしたね。
【面白い構造だった】
なんだか抜け殻みたいな男と
怪しげな宗教だかセミナーだかにハマっているらしい男。
二人は友人同士で、旅行に来ているらしい。
場所は伊豆あたりらしいことが、だんだん分かってきます。
はっきりとは、説明してくれません。
泊まっているホテルには、近々、閉鎖される、との貼り紙が。
なんとなーく、さびれーた場所での冴えなーい旅、という感じです。
そのうち、抜け殻男の口から、
ここが5年前に妻と出会った思い出の場所であることと、
その妻が亡くなったことが語られます。
「ああ、そういうことだったのか…。」
と思う観客。
その後、抜け殻男は、タクシー運転手とケンカしたり、
呑みすぎて吐いたり、
セミナー男とケンカしたり…。
「Beyond The Sea」(ボビー・ダーリンの歌)という歌と
ドアに挟んだハイライトをキッカケに、
(キッカケと言い切るのも、ちょっと自信無し、ですが💦)
映画は、抜け殻男と、その妻が出会った頃へと戻っていきます。
出会いの頃は、抜け殻男もニコニコ。
セミナー男も、悩みはあるらしいけれど、イキイキしている。
もちろん、未来の妻になる女性も。
ただ、彼女、
持っている物を失くしやすい、という癖(へき、と呼びたい)があるらしい。
これは人が恋に落ちる瞬間を見せた映画の一本、ということになるのかな。
町山智浩さんが
「トラウマ恋愛映画入門」(面白いので是非読んでみてほしい本です)で、
デヴィッド・リーンの「逢びき」(傑作ですよねぇ)を紹介する時、
「恋に落ちる瞬間を見せた映画」と書いていたと思いますが、
この「SUPER…」でも、そんなシーンが目撃されたと思います。
そして映画は、些細な、ちょっとしたことの中の「幸せ」を見せていきます。
カップラーメンが、
こんなに「シアワセの象徴」になるなんて思いもよりませんでした😁
でも、
観客は、5年後に妻が亡くなることを知っていて、
その状態で、キラキラした時間に立ち会うことになります。
これ、「ブルー・バレンタイン」と似た構造なような。
この方式、なんだか切ない気持ちになります…。
「ブルー・バレンタイン」は、
うまく行っていない泥沼夫婦の現状から始まって、
出会った頃の輝かしい世界を後から見せる映画。
現在と過去を、交錯させながら展開させる映画だったような。
なんとも絶望的な気分にさせてくれる作品でした💦
(出会った頃は、あんなに輝いていた二人だったのに…)
この作品も、
町山さんが「トラウマ恋愛映画入門」で解説してましたね。
【不親切なような、親切なような】
と、いうようなことで、
映画は、あまり詳しいことを説明してくれません。
でも、
出会いの頃のパートでは、
現在の抜け殻男の言動の理由を、割と示してくれるので、
親切設計とも言える。
とにかく、
こちらから意味を探していく映画だと言えそうですね。
海や波や流れる温泉や浴場など、水の気配にも満ちている映画です。
水の変化から、人生の変化や儚さを感じ取るのも、
まぁ、個人の自由というところでしょうか。
【赤い帽子とベトナムから来た従業員】
ホテルで働くベトナム人の従業員役にホアン・ヌ・クイン。
この人の存在も、なんかキイていました。
妻との交流や会話が、意味を持っていく。このへん、巧みだなぁ。
彼女は「Beyond The Sea」も歌うのです。
ホアン・ヌ・クイン、好演でしたね。
あ、
抜け殻男の佐野弘樹も、
セミナー男の宮田佳典も、
妻役の山本奈衣瑠も、みなさん、好演でした。
佐野弘樹は「愛のイナヅマ」に、
宮田佳典は「悪は、存在しない」に出てたのかー。
観たハズなのに、記憶にない。スミマセン…。
そして「赤いキャップ」。
この使い方も良かった。
なんと関連グッズになっていて、しかも売り切れ😅
まぁ、人気が出るのも分かる気がします。
印象的ですもんね、このキャップ。
「もしかして、このキャップ、こんな使い方をしちゃうかな?」
と、少し危惧(?)していたのですが、
流石に監督は、そんなことはせず。良かったです😁
記事によると、
佐野弘樹と宮田佳典が五十嵐監督と何かを作りたい、
と連絡を取って、
映画の制作が始まった、とのこと。
なかなか無い、ちょっと奇跡的な、映画の誕生の仕方かもしれませんね。
公式サイトによると、
「『青春期の終わり』を迎えた人々の、
奇跡のようなひとときを、さりげなく、鮮やかに記録」
とありました。
確かに、なぜか、妙に余韻が残る映画。
機会がありましたら、ぜひ、体験していただきたいと思います。