見えないものを見るように

その日はちょうど家にいた
知人かどうかも定かでない
誰かを昼食に招待したあと
片付け前に一息ついていて
精神的な疲労を感じたとき

遠くからゴーッとした音が聞こえてきて
ほぼ本能的に「あの音だ」と気が付いて
体勢を変えてしばらくしてそれは起きた

阪神大震災で私は被災者ではなく
テレビで死者の名前が延々淡々と
流れ続ける今ではあり得ない光景
度々避難所へ届けるお弁当作りが
日常生活に組み込まれていた日々
大きな事件が起きたせいか日本中
次の話題にすぐに移って子供心に
その先続いていく被災後の生活に
何の配慮もないように感じていた

だからちょっとした疚しさはありつつも
くすぶった反発心を否定はできなかった
あのときさっさと忘れてしまったくせに
今回はずっと忘れないとでも言うのかと

一か月後に新しい仕事を始めた
災害の影響で減っていた受注は
まもなくパンク寸前までなった
震災復興支援案件が山のように
受注が殺到しラインはフル稼働
遠く離れた場所の状態は見えず
用途の「がれき処理のため」は
文字の羅列にしか見えなかった
現場を思い浮かべることもなく
仕事量の多さにイラついていた

災害の思い出とは自分にとって
そういうものになりがちらしく
つまり直接的被害は被らないが
余波で日常をかき乱されるもの
何がどれほどの傷を残すのかは
受け止める人それぞれによるし
だから分かったようなふりなど
到底できないししたくもないし

見えないものを見るように
想像力を働かせてみるけど
災害時避難袋さえ持たない
私には危機感が足りてない

お弁当作りとそれに添える短い手紙を
意味も分からず書いた日々の裏にあり
いきなり一人で担った仕事の忙しさや
周囲の人のイライラの裏にあったもの
見えないままにしてきたけどそろそろ

見えないものを見るように