
春のお能(2)
お能は人物が登場するだけではなく、鬼や妖精なども登場します。
春のお能では桜を情景とした演目もありますが、精霊や神様が登場する演目もあります。
(「春のお能(1):風景としての桜」 はコチラ)
【精霊や神様が登場する能】
西行桜(さいぎょうざくら)
京都の郊外にある西行の庵(いおり)に咲く桜の評判を聞き、都の人たちが訪れます。
一人静かに花見をしたかった西行は、訪れた人たちを無下にできず庵に招き入れますが、「このように人が群がってくるのは、桜の罪だ」と詠います。
その夜、西行の夢に老人が現れます。
老人は、自分は桜の精だと語り、桜には罪はない、煩わしいと思うのは人の心次第だ、と西行に伝えると、西行に出会えたことを喜び、都の桜の名所を讃えながら、舞を舞います。
やがて夜が明ける頃、桜の精は西行に別れを告げ消えていきました。
「西行桜」あらすじ・見どころはコチラ(能サポ NOH-Sup 能楽鑑賞多言語字幕システム )
桜の花の精が、女性ではなく老人として描かれているのが特徴です。
舞は「序ノ舞」という、女性が主役の演目でよく舞われる舞ですが、西行桜では老人の舞が見どころです。
また花見客が来る前に、ワキの西行が一人静かに桜を楽しんでいるシーンも、見どころ(聴きどころ)の一つです。
(観世流大成版謡本「西行桜」のイラスト)
泰山木/泰山府君(たいさんもく/たいさんぷくん)
(※「泰山木」は観世流で復曲能、「泰山府君」は金剛流の現行曲です)
桜町中納言(藤原成範(ふじわらのしげのり))は、桜の花の命が7日間と短いことを惜しみ、その命を延ばそうと泰山府君の祭をします。
そこに天女が降り立ち、桜の花のあまりの美しさにひと枝折って、天上へ昇っていきます。
それを知った中納言は泰山府君に祈ります。
すると、祭の場に泰山府君が現れ、天女を天上から呼び戻します。
泰山府君は通力を使って桜の花の命を3倍の21日間に延ばし、昇天していきます。
生命を司る泰山府君は閻魔界の役人とも言われ、人の寿命を延ばしてくれるとの信仰が厚かったそうです。
この演目では、中納言も天女も泰山府君もみんな、桜が散ってしまうことを惜しみます。
両演目ともに、「桜の花への愛」が感じられます。ともに世阿弥作と言われ、泰山木とは桜の別名です。
桜を愛で、散ってしまうことを惜しむ気持ちが、これらの作品を生み出したといえるのではないでしょうか。現代にも通じるテーマですね。
京都の桜の開花は西暦812年から記録されているそうです。
約1200年前から、私たちにとって桜が大切にされてきたことが分かりますね!
2021年4月22日(木)に国立能楽堂で「泰山木」の公演があります。
https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/nou/2021/4111.html?lan=j
4月主催公演のチケットは追加販売されています。天女は観世宗家、泰山府君は金剛宗家が演じます。
めったにない機会ですので、タイミングが合う方はぜひご覧ください!
また、檜書店では「泰山木」の公演に向けて謡本を作成しました。
詳細はこちら!ご注文も承っておりますので、ぜひご覧くださいね!