対訳でたのしむ「百万」刊行!「物狂能(ものぐるいのう)」について
この度、対訳でたのしむシリーズから「百万」が刊行されました!
詳細はこちらからご覧くださいね!
百万のあらすじ・見どころはこちら!
■能「百万」とは
能「百万」は作者の世阿弥が後世まで廃れることはない名曲だと太鼓判を押していた曲で、作られてから現在まで一度も途絶えることなく続いている曲の一つです。
春の京都・嵯峨野の清凉寺でわが子を探す母が念仏を唱え、舞を舞い、わが子と再会する物語です。
シテ(主役)の百万という女が登場後、すぐにアイ(門前の男)を笹で叩くシーンがあるなど、構成が変わっていて古くに作られた曲とわかります。
また通常、お囃子の太鼓は神や鬼の能の最終場面で演奏されますが、「百万」では序盤の大念仏のシーンで太鼓が入ります。
こちらも珍しいですね。
■「百万」という人物について
能で登場する百万は「女曲舞舞(おんなくせまいま)い」という芸能者です。曲舞とは南北朝時代から流行した芸能の一つで白拍子などもそうですが、女性が男装して舞っていました。
また、「百万」の舞台となる京都嵯峨野の大念仏(大勢で仏様の名号を唱える法会)は、観阿弥の活躍した頃に流行しており、百万は能の中で念仏の音頭を取ります(「百万」は観阿弥が得意にしていた「嵯峨の大念仏の女物狂の物まね」を世阿弥が改作したものと言われています)。
犬王が「念仏の猿楽」(今は伝わっていません)を演じた様子も世阿弥伝書にあり、当時流行していた大念仏の趣向を取り入れた能がいくつも作られていたことがわかります。
百万のモデルは、この時代の曲舞の名手で百万と呼ばれる奈良在住の女曲舞舞いではないか、と言われています。
実際の人物がいるというのも面白いですね!
■物狂能の特徴
「百万」は物狂能(ものぐるいのう)というジャンルの一つです。
物狂と聞くとおどろおどろしい感じがしますが、能では「心の中に悲しみを持った人物が、周りの状況や人々の言葉によって一時的に高揚状態になる」ことを指します。
物狂になってしまう原因は、親子や夫婦・恋人などとの別れで、物狂になったシテが、古歌や故事などを用いて機知に富んだ会話をしたり、舞を舞うなどの何かしらの芸をすることで、「物狂能」ではその芸尽くしが見どころになることが多いです。
愛する人との別れをきっかけに始まる悲しい話の「物狂能」ですが、大半の曲は離れ離れになった者同士が再会して終曲するハッピーエンドです。
ただ、「隅田川(角田川)」という曲のみ、再会がないままお話が終わります(「隅田川」は世阿弥の息子・元雅作です)。
「物狂能」は四番目の「雑能」に含まれます。(五番立についてはこちら)
「隅田川」も「百万」も女物狂のシテは、笹を持って登場します。「狂い笹」と呼ばれ、笹を持っていることは物狂のシンボルになります。
■他の物狂能
物狂能は女性がシテの女物狂(おんなものぐるい)が多いですが、男性がシテの男物狂(おとこものぐるい)の作品もあります。「芦刈」「歌占」「高野物狂」「土車」「木賊」「弱法師」です。
■「物狂能」の公演情報
今回ご紹介した公演情報です!ぜひ足を運んでみてください。