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上演数の多い演目とその小書をご紹介:公演情報あり

今回は、よく上演される演目とその小書についてご紹介します。

また、ご紹介する小書がついた公演情報も載せていますので、ぜひ足を運んでみてくださいね。

【杜若(かきつばた)】

●恋之舞(こいのまい)

観世流の小書です。
杜若の精であるシテが、水面に映る自分の姿を見て「昔男(むかしおとこ)=(在原業平)」を懐かしむ所作が追加されます。
そしてお囃子も通常とは違った演奏になります。

杜若の精が初冠(ういかむり)に梅の花と、日蔭の糸と呼ばれる紐をつけるのも特徴です。序ノ舞を短くする「素囃子(しらばやし)」の小書でも同じ扮装になります。

【公演予定】
2021.11.7 「のふの事~能に暇なく 其の四 杜若」山本能楽堂(大阪府)

杜若_素囃子_神遊H26.3.16

「杜若 素囃子」観世喜正 
(神遊 H26.3.16 撮影/前島吉裕)

●沢辺之舞(さわべのまい)

宝生流の小書です。
観世流の「恋之舞」に似た内容ですが、この小書では杜若の精であるシテが、同時期に花盛りになる「藤の花」を見回す所作があります。

この小書でも初冠に日蔭の糸を垂らしますが、藤の花をつけます。

金剛流には「日蔭之糸(ひかげのいと)」という小書がつくこともあり、上記に類似した内容です。

過去に紹介した「杜若」の記事です。
初夏に登場する花の精:「杜若」「藤」

【羽衣(はごろも)】

●和合之舞(わごうのまい)

観世流の小書です。
通常、シテである天女が舞う時、「舞→謡→舞」の構成ですが、この小書がつくと謡が省かれ、「舞→舞」の構成になります。
二つの舞が一つに繋がるため「和合」と称されます。
通常は立木の作り物を出し、そこに天女の衣(長絹)をかけていますが、作り物を出さず橋掛リの欄干に衣をかけます。(「彩色之伝(さいしきのでん)なども同様です)

【公演予定】

2021.9.18 「日本全国 能楽キャラバン!in高知 観世流公演」 高知県立美術館能楽堂(高知県)

●霞留(かすみどめ)

喜多流の小書です。
天女が舞いながら高く昇り霞に消えていくのを強調して、最後の謡を「霞に紛れて」で止め、シテはそのまま幕に入ります。

2021.10.16 「第37回 横浜かもんやま能」 横浜能楽堂(神奈川県)

過去に紹介した「羽衣」の記事です。
能「羽衣」ってどんな演目?

【熊野(ゆや)】

●村雨留(むらさめどめ)

観世流の小書です。
シテである遊女・熊野が舞っている途中で村雨が降ってくるため、舞を中断するという演出です。
金剛流では「花之留(はなのとめ)」という小書がつけられます。

熊野は小書がよく添えられる演目の一つです。
なんと小書が4つ付くこともあります!

熊野 読次之伝 村雨留 墨次之伝 膝行留 (2017.6.4 観世定期能)

読次之伝(よみつぎのでん):文を宗盛が始めに読み、途中から熊野が読んだり、熊野と宗盛が一緒に読みます。
村雨留(むらさめどめ):上記の内容です。
墨次之伝(すみつぎのでん):熊野が句をしたためる時に、筆に見立てた扇を墨につける所作です。
膝行留 (しっこうどめ):句を書いた短冊を渡すため膝行(しっこう)して宗盛のところまで行く所作です。


一つの演目に複数の小書があり、バリエーションに富んだ舞台を楽しむことができます。
小書は流派によっても扱いがかなり異なり、上演時間が短縮されるというものから宗家しか演じることができない、というような重いものまであります。

なかなか奥深いですが、演出のこだわりを感じられるかもしれません。
ぜひ小書付きの演目もご覧くださいね!

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