noteに綴ったら現れた、あの日の彼と明晰夢
ふた月程前にここにある思い出を綴った。
そして久しぶりに昔のことを思い出したせいか、私は最近、彼の夢を見た。
夢とは都合のいいもので、全て私の思っているようにいくようだ。
目を開けたままでは、もううまく思い出せなかったであろうあの場所。
街の喧騒、都会的な街並みの中、ここは市場かというほど轟く八百屋の声。
何かを待っているような人や、ただただたむろしているような人で溢れる高円寺の駅前。これは明晰夢だ。
こんなにも鮮明な景色を夢で見たのは初めてかもしれない。
夢の中はあの時とは違って、まだ終電よりもずっと早いようだった。
太陽も出ているし、街は賑わい、電車の音が度々聞こえる。
私は北口から駅を出て、そうすることが決まっているように左に歩いて行く。
変な形の銀行のATM。palと書かれたアーケードの手前。
そうだ、ここは間違いなく、あの時の高架下の高円寺ストリートだ。
夢とは本当に都合がいい。
あの日から一度も会っていない彼が、当たり前のように目の前に座っている。そして、私のポケットにはあの時と同じように缶チューハイが2本入っている。
けれど、夢の中の彼はなぜだか装いがすっかり変わっていた。
幅の広いバンダナで束ねていたたっぷりとしたドレッドヘアはなくなり、少し毛先に金色の交じるストレートの短髪になっていた。
あのうさんくさい髭もない。
それでもすぐに彼だとわかったのは、あの例の木の筒を持っていたから。
周りは人も多くて、天気のいい休日の昼間のようなのに、高架下だけはあの時と同じように薄暗い。そしてあのカメラ屋だけが、これまたあの時と同じようにシャッターを降ろしていて、彼は、シャッターにもたれかかるように地面に座っていた。
まるで、そこだけあの日から切り取って持ってきたかのようだ。
このまま夢が覚めないように、予期せぬ何かが起こらないように、遠くから見ていようかとも思ったが、私はやはりポケットの缶を取り出し、彼に無言で差し出してしまう。
目の前に差し出された缶チューハイを見てから視線を上げた彼は少し固まり、考えている。
私はどんな姿で、どんな顔をしてそこに立っているのだろう。
私として見ているこの夢の中の景色からは、それを知ることはできない。
彼は無言で缶を受け取り、しばらくそれを見つめてからもう一度私の方に顔を上げて言った。
「久しぶり。また今回は、随分時間がかかったね。」
彼は眉毛をハの字にさせながら笑った。
そして、笑った顔がぼやっとしてはっきりしないまま、急に景色がぐにゃりと曲がり、そこで目が覚めた。
こんな続きもあるんだな。夢だけど。
もうきっと、会うこともない名前も知らない彼と、もう一度会えたのは間違いなくあの日々を思い出してここに綴ったおかげだ。
このプラットフォームから、それぞれのアウトプットを通して顔も知らないどこかの人と出会えるように、この都合のいい夢は、私にとって間違いなく、彼との「再会」だった。
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