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タンバリン湿原 #毎週ショートショートnote

その湿原には不思議な噂があった。
天候、時間帯、何がどう作用してかわからないが、ある条件が揃うとタンバリンのような音が聞こえるんだとか。

無名だが一応パンデイロ奏者として活動する俺は、噂の音を聞きたくて湿原を訪れた。湿地帯の中をしばらく歩くもそれらしい音は聞こえない。まぁ一回来たくらいで運良く遭遇するわけないか。

…しかしこの湿度、弾きやすそうだな。俺は思わず楽器を取り出した。
程よく湿気を纏った指先が軽快な音を刻む。ワックスなしでこんなにも自在に操れるのが快感だった。


数年後、湿原の噂は俺によって本物になった。
今では「タンバリン湿原」としてメディアから取り上げられ、観光客も増えた。俺もタンバリン湿原の名物おじさんとして、わざわざ会いに来る人がいるくらいになり、演奏で飯も食えるようになってまんざらでもない。

俺は「愉快なタンバリンおじさん」を甘んじて受け入れているが、こいつは「俺、パンデイロなのに…」と思っているだろうか。


( 411字)


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日野笙 / Sou Hino
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