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はじめてのパチンコと、ギャルと、アキラ様

ギャルが好きだ。
ギャルは気持ちがいい。

私はいわゆる"ギャル期"を経験することなく大人になってしまったので、それらしい友達はあまりいなかったのだが、昔アルバイトをしていたパチンコ店は、ちょっと田舎で駅から離れた立地だった為か、おそらく地元民であろうヤンキーやギャルがたくさん働いていた。

初めて出勤した日「わー新しい子だ!よろしく〜!え、どこ中?」と聞かれ、どこ中?って会話は本当に実在するんだ!と心踊ったのを覚えている。

私の生まれ育った町には小学校も中学校も1つずつしかない。
どこ中も何も通う中学校なんてわかりきっているし、町を歩く子供はみんな顔見知りで、なんなら家の場所から家族構成まで全て知っているような僻地にいた私にとって、その言葉はとても新鮮だった。


おそらく私の方が若干年上だったのだが、正直彼らの見た目や勢いにビビり倒して、いつもへこへこニコニコびくびくしていたので彼らは私を年下のように可愛がってくれた。

ヤンキーはなんでもないようなことですぐに怒り、よく社員の人と本気の言い合いをしていたが基本的には陽気で優しく、昭和のお父さんのような男気があった。
ギャルは常に彼氏と上手いっているか否かでその日の機嫌が二分されていたが、いつも綺麗で可愛く、明るくて面倒見のいい人ばかりだった。

先入観も多少入っているところは若干否めないが、その店にいたヤンキーとギャル達は、本当にその先入観を体現しているようなティピカルなキャラクターの人が多かったのだ。
そして彼らは気性こそ激しいものの、とても勘が良く、仕事が早かった。

しかし、彼らと仕事をする上で1つ私を悩ませる問題があった。


それは私の知らない専門用語や流行り言葉、身内ネタから誕生した新しいワード、そして言い間違いの解読だった。

営業日報は「パルサーのおっさんバケばっかでブチギレて台パン。山プートラブりました」みたいな難解な言葉で綴られていたり、パチンコの専門用語なのか、彼らの中のオリジナルワードなのかがわからない文言が何度となく登場した。

この呪文のような日報をわかりやすく訳すと「パルサーという機種のスロット台をいつもご利用される年配男性のお客様が、ビックボーナスよりも獲得枚数の少ないレギュラーボーナスしか発生しないことに憤りを感じられた結果、遊戯されていたスロット台を殴打されたため、スタッフの"山プー"こと山下さんが対応して、少々揉めるというトラブルがありました」という内容になる。
要領を得れば、彼らの文章の方が単純明快ではある。

ちなみに余談中の余談ではあるが、"山プー"の由来は山下という名字と、痩せていれば顔がちょっと山下智久に似ているのにプーさんのようにお腹が出ているというところから来ている。


私は最初、彼らの操る言葉がわからないながらも、なんとなくその言葉の意味を聞いてしまうと”通じないサムい奴”になる気がして聞けなかった。私もその輪に入りたかった。
彼らからしたら根暗の真面目ちゃんだったであろう私が日誌を書いた時には
「え、なんかむず。細か。ウケる」と言われたことがある。


その店でしかパチンコ店で働いたことがないので他がどのようなルールなのかはわからないが、基本的にその店では男性スタッフは全員ホールを担当し、女性スタッフは1人はカウンターを任され、その他は男性と同じようにホールを対応するという決まりになっていた。

カウンターの業務は景品交換作業はもちろん、店内アナウンス、掲示するポスターの準備や、遊戯台の1台1台に付けるPOPの作成など、なかなか多岐に渡る。
POPの作成は、400枚近くある出力に1枚1枚ラミネートをかけ、それをデザインに沿ってハサミで切るという作業だ。
硬いラミネートを切っていくのはかなりの作業で、その日は手にハサミだこができるほどだった。

基本的にはホール業務の方が体力仕事なので、カウンターは女性スタッフにとって楽な持ち回りなのだが、新しいPOPが届いた日に限ってはジャンケンで負けた女の子が泣く泣くカウンターに入り、ハサミだこをつくるのがセオリーだった。


そしてカウンター業務の中で、簡単だが一番慎重に行わなければならないのが景品交換である。
パチンコをしたことがなかった私は、働いて初めて知ったのだがパチンコ店には現金がない。私はたくさんの銀の玉をカウンターに持っていけばそこでお金がもらえるものだとばかり思っていた。

銀の玉やメダルは計数機の中に入れられ、そこから出てきたバーコードが印字されているレシートを持って客はカウンターへ行く。
そして、そのレシートをカウンターのレジで読み込み「特殊景品」と呼ばれる金(金地金)が入ったプラスチックのようなもの渡す。これが景品交換だ。
それを持って客は換金所に行き、現金を受け取るのだ。

カウンターに持ち込まれるレシートは、1枚の時もあれば、色々な台を打ったり何度か計数機にかけ、複数枚持ってくる人も中にはいる。


そして事件は起こった。
ホール作業にも慣れ、カウンター作業を教わるべく先輩のギャルとカウンターに入ったその日、私は数の大きいレシートから読み込みをすると教わったのだが、ある時うっかり小さい数のレシートを先に読み込んでしまった。
先程教えたばかりのギャルは当然、烈火のごとく怒る。

「これさーさっき言ったじゃん大きいのからって!数大きいやつこっちじゃん!レシート見たらアキラサマじゃん!」

アキラサマ...?聞き間違いだろうか?
このレシートを持ってきた客がアキラ様なんだろうか。
そんなわけはない。(知らんけど)

これはまた新しい専門用語なのだろうか。
前後の言葉をふまえて真剣に考える。
そしておそらく彼女は「明らかに」か「あからさまに」ということを言いたかったんだろうということがわかる。

ミスをしたのはもちろん私で、しかも絶賛怒られてるいる最中なので「いやいやアキラサマって!どちら様ですか先輩!ははは!」なんて愉快にツッコむわけにもいかない。
ただただ「はい、すいません...」と頭を垂れていたのだが、言い間違いでも聞き間違いでもなく完全に何度も「このアキラサマにでかい数の方をー」と彼女はアキラ様を多用してくる。


笑ってはいけない。
馬鹿にしているのではなく、言葉が好きな私はその言い間違いが楽しくてしょうがなかった。しかし、それでも今笑うのはよくない。
笑わないようにと下唇を噛んで必死で険しい顔を作り、話を聞いていると「つーかそんな泣きそうになんなくていいからぁー!次気をつけて!はい!次やろ!」と肩を叩き、私を励ますギャル。
...うーん、いい奴!
私は泣き笑いのような顔になった。


いつも明るい愛すべき仕事仲間にめぐり会えて、毎日こんな調子で励まされたり、面白いことが起こるパチンコ店が私はすっかり好きになってしまった。

正直今となっては、そこで覚えた仕事のことなどほとんど覚えていないのだが、彼女の「アキラサマ」はかなりのインパクトをもって私の記憶の中に残っている。

ギャルは一緒にいると心が軽やかになるし、とても気持ちがいい。



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