深煎り入学式 #毎週ショートショートnote
「今日は?」
「深煎りかな」
2人の打ち合わせはこの会話から始まる。
「じゃあ今日はマンデリン」
女が珈琲豆を焙煎している間に、男はテーブルに置かれた書類に目を通していく。
「明日の依頼は?」
「入学式の母親代行。ほら先月も卒業式にも出た子の」
「あぁ、あの」
「夜も同じ現場よ。友人宅でホームパーティですって」
「まったく、便利屋をこんな風に使う親がいるとはな」
「体裁は気にするのに我が子の気持ちはどうでもいいみたいね。もうあの子の母親よりも母親やってる気がするわ、私」
「...おい、あまり深入りしすぎるなよ」
「え?別にいつも通りだけど」
「ならいいが...」
「なに?いきなり。そんな文句今までつけてきたことないじゃない」
「信頼してるが、一応忠告だよ」
「忠告?偉そうねぇ。私の腕がそんなに不安ならあなたがやれば?」
「おいおい、無茶言うなよ」
「何が無茶なのよ。コーヒーなんて誰だって入れられるわよ」
「俺に女装しろってのか?」
「は?」
「え?」
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