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私の知らない北千住


北千住には何度か訪れたことがあるのだが、今日はたまたま違う沿線を使って向かった。

「いつもの出口」が西か東かなんて覚えていない。
「こう歩いてこう出る口」としか認識していないので、いつもの出口がわからず、それでもまぁ多分こっちだろう、なんて適当にそれっぽい気配がした方向に足を進める。(これが方向音痴のほんとに悪い癖)

「たぶんあってるだろ口」を出た私はびっくりした。
どこだ、ここは。
せいぜい"あぁこっち側に出ちゃったのか"くらいの違いだろうと思っていた私の目の前には、見たこともない街並みが広がっていた。

私が知っているいつもの出口が北千住のメインだと思っていたのに、そこにはもっと栄えていると思われる全然違う「駅前」があった。
なんだかパラレルワールドの私の知らないバージョンの北千住に迷い込んでしまったような気分。


ただ改札を間違えただけで大袈裟かもしれないが、その規模感と、知っていると思っていたのに見たことのない景色が広がっていたこと、そして曇天やちょっと色褪せたビルの看板などが相まって、私はなんだか寂しいような不安な気持ちにかられた。

ここはどこだろう。
私は家に帰れるのだろうか。(間違いなく帰れる。回れ右して電車に乗ればすぐに帰れる)


この気持ち、小さい頃に味わったあの感覚に似ている。
初めて1人でおつかいに行った時や、ちょっとよそ見をしながらも追いかけていた背中がいつの間にか自分の親ではなく全然知らんおばちゃんになっていた瞬間。
ドキドキとおろおろとどうしようとなんとなく悲しいが混ざって、立ちすくんでしまう時の気持ち。


すぐにGPSを開くなり駅の中の案内でも見ればいいものを、なんだか恐々としながらも私はその感覚にもうすこし浸りたい気がして、もうちょっとだけそのまま歩いてみることにした。

異様に遅く感じるエスカレーター。
登り切ってもやはり見覚えはない。
駅から出たはずなのにもう一度駅っぽい入口が現れ、怪訝な顔をしながらもそこに吸い込まれていく。


あ、知ってる匂いがする。
これはあれだ、スープストック。

私にはスープストックの匂いを嗅ぐと思い出す、ある場所がある。
そこに通っていた頃、毎日のように通る駅の出口にもスープストックがあった。
だから私にとってスープストックの香りはあの場所の、あの時期のあの思い出の香り。

それを嗅いでなんだか私はちょっと安心した。
やっぱり「知ってる」って安心するんだ。
スープストックよ。
あの頃の私よ。
ありがとう。


なんて、知ってる匂いを嗅いでそんなことを思った、知っているはずの知らない北千住。

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