ひいき目

ひいき目だけれど、このスポーツは、劇的で、かつ、美しい。コツコツとポイントを争うルールでありながら、たった一撃によって容易に形勢は逆転し、あるいは勝負を決します。

「これほど短時間の間に、これほど多くのことが、これほどとり返しのつかない形で起こるスポーツは他にない」という端的な定義は、そのまま辞書に載せて欲しい。

かつてない数の世界チャンピオンを抱えながら、この国のボクシング人気は、ソコソコで、現にその試合は、しばしば録画によってお茶の間に届けられます。

あいにく、世の中は情報化社会で、お茶の間に電波が届く間に、速報が、SNSが、街中のサイネージが、試合の結果をつまみ食いします。

こうして、あくまで劇的さを求めるファンは、試合が始まる頃にはスマホの電源を落として、伏し目がちに帰りの電車に乗り込むハメになります。