見出し画像

ペトリコールについて

ペトリコールについては、あの日、Sに教わった。「降り始めの雨の匂いを、そう呼ぶんだ」。それを聞いた私は、「水に匂いなんかないでしょう」と疑った。

「土や石に付いている油が、雨に当たった瞬間に粒子になって舞い上がる匂いなんだよ。懐かしくって、なんか好き」とSは、胸にそれを吸い込んだ。

そういえば、子どもの頃に嗅いだ匂いではあった。でも、大人になった私は、嗅覚を削がれ、遠い場所にあるペトリコールを脳内に呼び起こす力も失っていた。

今日も1人、降り始めた雨の中を傘も差さずに歩きながら、「町は、今、あの匂いに包まれているんだろうな」と思った。Sが好きだったペトリコールに。

いいなと思ったら応援しよう!

皮膜
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。何らか反響をいただければ、次の記事への糧になります。

この記事が参加している募集