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M(2)

Mという喫茶店で私は、いいました。「もう十分でしょう。その音は、迷惑です」。男は、ファインダーを覗いたままです。「もう、よしてもらえますか」。

そこで男は、それが自分に宛てられた注意と気付き、少し合点がいかない様子で三脚を畳み、店内に静寂が戻りました。でも、気まずい雰囲気も残りました。

こういう場面では、自分が立ち去ればそれで済みます。だから普段の私なら、この種の異議を申し立てません。でも、この店への愛着が私を雄弁にさせました。

ピピ、ピピ。相変わらず電子音をさせて、男が写真の仕上がりを確認しています。「私の義憤は、伝わらなかったなぁ」と苦く冷めたコーヒーをすすります。

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皮膜
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