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kanakoozeki
父親(6)
父親の口元が何事か動く。耳を近付ける。「なかよく…」。父親は、そういっていた。「ああ、仲良くしてるよ」と、Eさんは、反射的に答えた。
それは、根も葉もない嘘だった。あるいはそれは、当事者の言葉を否定せず何となく話を合わせてやる、認知症対応に関する聞きかじりのセオリーだった。
「なかよく…」。もう一度いう。うつろな目は、でも、息子を見据えている。「混濁する記憶の中で、やっぱりそのことを気に病んでいたんだな」と気付く。
それは、疎遠であり続けるEさんと家族のことだ。涙を止められない。独り善がりな涙と知りながら、女の人の目も気にせずEさんは、泣いていた。
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