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父親(3)


父親のいる市立病院へ向かうバスを待ちながら、まだ迷っていた。台風が近付くH駅の駅前にいる。病院のサイトには、面会時間が17時までと書いてあった。

「親の死に目に会えなくては後後、冥利が悪いんじゃないか」という、ごく利己的な衡量が、2時間を掛けてEさんをこの場所へ運んできた。

でも、ここまで来て、認知症を患う父親と20年振りに再会する、その恐怖にとらわれる。過去のわだかまりを乗り越え、父親と心から向き合う勇気もない。

このまま病院に向かわずに、過去のままの関係で終わらせる手もなくはない。父親に会った後の後悔と会わなかった後の後悔を、まだはかりに掛けている。


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皮膜
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