父親の入院先を教わり、「事情は、分かりました」とだけ答えた。「来れそうだったら、前もって連絡してね」と母親がいう。「その必要はないと思います」。
「お母さんも一緒に行きたいから」。それは、「父に会え」という要求とは別の要求であり、Eさんは、不機嫌になる。「それは、どういうことですか」。
「あなた1人だと、もう、会っても分からないかもしれないから」。母親は、口籠る。初め、Eさんは、「20年も会っていないから」という意味と理解した。
けれど、「もう」とは「認知症が進んで」という意味だ、と気付いた。「かつての関係を取り戻すことは、もう不可能なのかもしれない」といわれた気がした。