HSK15 - 客室からのリサイクルゴミがお金になる
2018年12月
私は完成したリサイクルゴミの提案書を携えて出勤しました。
2012年に私が働き始めてから、部屋から出たゴミがリサイクル回収されるところを一度も見たことがありません。ルームアテンダントが集めたゴミは、全て埋め立て用のゴミとして回収されていました。
はじめのうちは、割れたグラス類を回収する小さなコンテナのことをガラスリサイクル回収用のものだと勘違いし、そこにせっせとワインボトルなどを詰め込んでいました。他のスタッフが同じように勘違いして入れたであろう形跡を見かけたこともあります。
しかしいつまでたっても入れたボトルは回収されず、リサイクル専用の回収箱がないことを知りました。
リサイクル専用のゴミ箱がホテル敷地内に存在するにもかかわらず、ホテルでは客室ゴミのリサイクル回収を行なっていないなんて、思いもしませんでした。
あなたが観光でこの地を訪れ、滞在先のホテルのゴミ箱の横にきれいに洗ったペットボトルを置いたとしても、それらはまとめて黒いゴミ袋へと回収され、どこかの土地に埋め立てられるだけなのです。
掃除をしながら、私はいつも気持ち悪く、そして申し訳なく思っていました。
地元の子供たちは小学校の授業の一環で、ゴミ処理施設へ見学に行き、リサイクルの勉強をします。
家庭には「一般ゴミ」と「リサイクル」2種類の回収用ゴミ箱が市から配られており、ときおり、啓蒙イベントなども行われています。
(写真は違うエリアのものですが、家庭用のゴミ回収バケツ)
私は以前、大学の研究用にゴミ出しのモニター家庭として参加したことがあり、何がリサイクルに出せて、何が出せないのかということに結構気を遣ってきました。
なのに職場では全てが埋め立てゴミなのです!!!
(注・オーストラリアにゴミ焼却炉があるという話を聞いたことがありません。基本は埋め立てです)
重いワインボトル、
全部封の開いた一箱24本入りのビール容器、
大抵の部屋から出てくるお水のペットボトル、
スポーツドリンク、
エナジードリンク、
子供が飲むジュースの紙パックなどなど。
黒いゴミ袋に回収すれば、重くなるし、水分もあるしであまりいいことがありません。
パーティーの残骸のような部屋だったら、ゴミ袋ひとつでは済みません。
一般的な家庭のゴミ出し意識と職場とのギャップに、もんもんと仕事をこなす日々。
そこに、2018年11月からリサイクルゴミを回収ポイントまで持っていけば、10セントキャッシュバックされる「Container for change」プログラムがはじまったのです。
これは、商品販売時に13-15セントくらい金額を上乗せしてあり、容器を回収した時点で10セント返却するというもの。上乗せ分は税金となって回収され、市だか州の管理のもとで回収業社にキャッシュバック分を支払うという流れだそうです。
情報の早いスタッフが、10月ごろから客室のペットボトルを回収し始めていたので、私も知ることができました。
そして、これはチャンスだと思いました。
「ホテルに、リサイクルの提案をするなら今しかない!」
早速、苦手な英語でのレポート作りを開始しました。
提案をする上でのポイントは、働くスタッフが余計な時間を取られないこと。
リサイクルゴミの回収がスムーズにできること。
ホテルはビジネスなので、リサイクルをすることでマイナスが出るなら提案しても一蹴されるだけだと思いました。
私の理想は全リサイクル品の回収を進めることですが、ホテルが動くのは回収業者からのキャッシュバックだろうと思い、以下3択の提案をしました。
1・現状維持
2・回収したリサイクル品を、ただ市のリサイクルバケツに入れる
3・お金になるリサイクル品と市のバケツに入れるものを分けて回収する
部屋のゴミ箱に手を入れるのは危険な可能性がありますが、現状でも液体の入ったボトルが入っていれば取り出し、中身を全て流してから回収することはマストなので、それほどの違いはありません。
ただし、リサイクル品を別でフロアのどこに回収するのか、誰がそれをフロアから集めるのか、ということは理想を提案するしかできません。
また、実際に集めるスタッフからのクレームも出るだろうと想定しました。
(のちに、友人にこの一連の話をしたら「そんな面倒なことを、わざわざやろうと思う人の方が少ないと思う」と言われました…)
キャッシュバックで得たお金を、スタッフに還元できるようにしたり、残りのお金を寄付すれば、エコなホテルとして宣伝できるのではないか。
そんなことをつらつらと書きました。
苦手な英語ですから、履歴書作りの時にお世話になったオージーママさんに添削の助っ人を頼みました。
私の方で作った文章は子供に一度見てもらい、その後彼女に託したのですが、実は彼女、大学では環境学を専攻していたらしく、この提案書に関して初めからとても乗り気でした。嬉しかった。
彼女から戻ってきたのは、添削してもらった私のワード書類のほかに、ホテルグループが取り組んでいるサステナブルプログラムのオンラインで探せる資料の情報までついていました。
たしかに、そのプログラムのことは社員研修で聞いたことありましたが、すっかり忘れていました。
そうだ、そうだ。
早速その資料をプリントアウトし、私の提案を後押ししてくれるような情報を探します。ホテルをリノベーションした時に出る大量のゴミなど、分野の違う話がある中に、ようやく見つけました。
「宿泊するホテルでも、家庭で行っているようなリサイクル活動を行うべきだ」みたいなアンケート結果の内容です。
これはそのまま資料に付箋を貼ってマーカーを引き、提案書とともに手渡しました。
当時、部門長のポジションが空いていて提案書を検討する人がおらず(多分)、年が明けてからやってきた新しいマネージャーの手に渡ったのですが、先に取り組むべきことが多かったようで後回しになっていました。
しかしある時、ホテルの敷地内にリサイクル回収業者の回収用バケツがずらっと並び、そのバケツが各フロアにも配置されたのです。そして、
「できる範囲で、部屋から出たリサイクルごみはこちらに回収して欲しい」
と言い渡されました。
なんと、実際に運用が始まったのは私の提案した3つのどれでもなく、「お金になるリサイクル品だけ回収する」でした。
まだまだ私は甘かったですね。
全てのリサイクル品を回収したい! という気持ちが強すぎたんだと思います。この選択肢、気づかなかった…
そしてそれは、私がホテルを辞める数ヶ月前のことで、ほんの少しの間しか、ホテルのリサイクル活動に貢献できませんでした。
ワインボトルは対象外なので、相変わらず重いゴミ袋になることもありましたが、それでもほとんどのリサイクル品を回収する手段ができたことは、とても誇らしいものでした。
提案してみてよかった。
この頃に、中国が海外からのリサイクルゴミの受け入れを拒否し、オーストラリアから出たゴミを、じゃあどこに持っていくのかというのは別の問題として存在していたのですが、それでも直接埋め立てゴミに行ってしまうよりは、別で回収することのほうがはるかに未来への可能性があると思っています。
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