中級者向け 世界観によって物語らしさを造成する 「帰還」「気付かれない到着」「暴露」「判別」「姿の変更」 クリエイターの為の批評コラム
前回はこちら。
さて、世界観には「物語を下支えする役割」と「軸を最大限に活かす環境を整える役割」があるのではないか、という流れが見えてきた所で、物語らしいパターンが出来るだけ沢山使えるよう、構造ユニットの機能を阻害しない世界観にする為にどんな点に気をつけるべきかを構造ユニット毎にチェックしていきながら、同時に作品の軸を成立させ、生かし、最大限に活用する為の世界観の使い方について書いていく事になりそうです。幸い、構造ユニットはこれまでの連載で出し尽しているので(プロップだけでなく他所から足したり僕自身が補足したりしてますし新しく出てきたらそれも足せばいいので)、とりあえずそれを折り返していく形でリストを辿っていきつつ、軸を活かす世界観の作り方を探っていきましょう。
「帰還」。帰ってくる事が出来る、という事は何処かに移動出来なければなりません。あるいは「心の旅」のように意識の変化や「もしも」という仮定によるシミュレートが可能な状況である必要があります。現状から、異なる状況を経て、現状に変化を(「欠落」の「回復」を)与える為に、帰って来れる仕組みにしておきましょう。
「気付かれない到着」。帰り道で「迫害」されるケースや待ち受ける敵に奇襲を仕掛ける為には、気付かれないように進み、忍び込む手段が必要です。防御が完璧な場所では使えなくなりますね(そもそも「完璧さ」に説得力ある理由を持たせようとすると無理が出るものですが……)。世界観や描きたい状況に応じて、設備や監視はどのようなものか、それを掻い潜る手段はどうするか、考えて選びましょう。
「暴露」。まずその世界で嘘やごまかしが可能でなければならないでしょう。隠されている、騙されているからこそ真実が明るみに出るインパクトが生じ、「罪」が露見し「罰」が下るのです。その世界でのごまかし方、騙し方、隠し方を具体的にしましょう。もう一段深く探ると、嘘やごまかしが罪でも何でもない世界観では「暴露」が機能しないだけでなく「欠落」を「回復」させる動機づけが生じないかもしれません。倫理観や社会構造の設計次第で物語構造ユニットは簡単に機能不全に陥るので、あまりに物語離れした世界観を扱うのはやめておいた方が無難です(もしどうしてもやるなら新ジャンルを開拓するか金字塔を打ち立てる覚悟で)。
「判別」。証明手段や分類の基準が必要です。一方で「『判別』を機能させない手段」が障害として成り立ち、「どう証明するか」が「難問」ともなり得ますね。顔を知っているとか本人しか知らない事を知っている等から、科学や魔術、占いや特殊能力によるものまでその世界で信用されている判別法を決めておく必要があるでしょう。
「姿の変更」。目で見て違いが分かる、という仕掛けなので、何がどう違うのか、何処でそれを見分けるのかを決める必要があります。実用性は必須ではなく、装飾でも構いません。多分、重要な役割程目立つのではないでしょうか(わざと隠蔽されているのでなければ)。主人公の姿が変わる事で、区切りが訪れた事が理解されます。
・「風が吹けば桶屋が儲かる」世界
さて、「物語構造ユニットを生かせる世界観の条件」らしきものの後に、「軸を成立させる世界観の使い方・作り方」らしきものを書いてみます。軸が先か、世界観が先かで少し迷いましたが、とにかくやってみましょう。
風が吹く→砂が舞い上がる→砂が目に入る→失明する人が増える→(当時目の見えない人は三味線を弾いていたので)→三味線の需要が高まる→素材の猫の皮が沢山必要になる→猫が減る→敵が減って鼠が増える→増えた鼠が風呂屋の桶をかじるようになる→桶屋が儲かる、という連鎖反応で風が吹くと桶屋が儲かると言われていますが、砂が目に入ったくらいで普通は失明しませんし、失明する人が増えたとして鼠が激増する程猫が捕られるくらい三味線需要が高まるとも思えないのでこれは流石に非現実的ですが、もしこれを成立させようとしたらどうなるでしょうか。
「砂が目に入っただけであっさり失明する世界」。どう考えても異世界ですが、三味線あります? 猫や鼠は失明しませんか? ちょっと無理っぽいですね。
「風がダイレクトに猫を殺す世界」。これも異世界っぽいですが、「風」が病原菌を運ぶと考えれば「猫だけに広まっている奇病」の話になるかも。
「風がダイレクトに人間を失明させる世界」。環境の激変で人が生きるには厳しくなった、という事でしょうか。桶屋以前に経済が成り立っているんでしょうか。
「風がダイレクトに鼠を増やす世界」。桶屋が儲かるだけでは済まなくなりそうですね。
「風が何故か桶だけを破壊する世界」。もはや意味が分かりません。
軸・コンセプト・テーマ・モチーフが何であれ、「その条件だと、こっちはどうなる?」という問題が発生するようです。「あちらが立てばこちらが立たず」という訳ですが、そもそも作品作りでそこまで世界観に整合性を求めるのか、という点もあり、その上で、説得力のある理由も含めた世界観を構築する事を目指すのもよいでしょう。
例えばブラッドレー・ボンド、フィリップ・N・モーゼズ『ニンジャスレイヤー』では史実の忍者でも日本人が描いてきた忍者でもなく、フィクションを通じて日本の外で流通したイメージを「ニンジャ」として捉え、サイバーパンクと融合する事によって独自の世界観を築き上げています。大都市、ハッカー、サイバネティクス、近未来の技術や政治家や大企業等がニンジャとどのように関わるのか? そもそもニンジャとは何なのか? 何故その世界にニンジャがいるのか? それらは作中で描かれるものもありながら、世界全体の「謎」として作品そのものを牽引する材料としても利用され、ドラマが展開されています。
そうした「世界観と軸の関係のあり方」を感覚的に察知する事も作品作りに役立つと思いますので、珍しい、しかし説得力のある世界観の作品にはよく目を通しておく事をお勧めします。
という感じで、「物語らしさを損なわずに生かす世界観の作り方のコツ」と「軸となる要素を世界観と結合するコツ」の両輪で回す事になりそうです。とまれ世界観にはある程度は受け手が受け入れられるだけの説得力が求められでしょうから、「世界観に説得力を付与する方法」が必要になりそうですが、用意してないので次回に続きます。
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