中級者向け 物語構造とリアリズムとキャラクターメイキング「不在」「探査」「漏洩」「幇助」「悪計」「道案内」「照準」「根拠のないみせかけ」 クリエイターの為の批評コラム

前回はこちら。


さて今回からちょっと趣向を変えまして、「物語らしさをどうやって演出するかの具体的演習」から「物語らしさと魅力的なキャラクター」に軸足を移してみようかなと思います(上手くいかなかったらすぐ戻します)。魅力的なキャラクターの作り方として「ドラマを生む構造をキャラクターに埋め込む」という発想を以前書きました。シクロフスキーの言う「逆行する感じ」を持たせろ、と書いたはずなのですが、物語構造から発想して、そういう構造ユニットで機能するキャラクターにする事、例えば「禁止」→「違反」では「やっちゃいけない事をやっちゃうキャラ付け」をしておく事が物語らしいシーンを作る為の条件になりそうだなと。

今回は各構造ユニットの解説よりもそちらの、キャラクターメイキングへの応用を中心的に扱いたいと思います。


まず「不在」。「ここにいるはず」「なのにいない」、「あるはず」「なのにない」というモチーフ。留守だったり席を外していたりで見知らぬ場にぽつねんと放り出されたキャラクターが手持無沙汰になって見ちゃいけないものを見てしまったり物を壊してしまったり、そこから話が展開しそうなきっかけとなるユニットですが、これが機能するにはキャラクターが行儀良過ぎてはいけません。好奇心旺盛だったり考えなしだったり、「相手を探していたという事にしよう」「咎められたらその時謝ればいい」などと言い出したりしないと機能しません。以下の構造ユニットでも同様ですが、例えば「用があって入った部屋で時間がないから勝手に探す」というケースを成立させるには状況なり性格なりを事前に設定し「不在」を機能させられるようにしておく事が必要です。

次に「探査」「漏洩」。「相手に探りを入れる」「相手について知る」というモチーフ。プロップの「31の機能」では悪者が主人公側に対して行うものとして指摘されていますが、これは即ち情報戦なので今では主人公側も当然やる事になるものでしょう。このモチーフが機能するにはキャラクターが「探査」する動機と行動力を持ち、行使した結果「知る」か、誰か別のキャラクターが「わざわざ教えてくれる」等。動機と行動は異なるキャラクターがそれぞれ分担してもいいでしょう。関係性を構築するべく「モチーフが機能する為の条件」を複数のキャラクターに分配し、チームを組ませるという形式は使えます。あるいは悪気なく「見て・聞いてしまう」事も、伏線として「噂話」「友人との他愛無い会話」で情報を入手したり、「探査」が答えにつながらず、しかし「ヒント」になるという場合も。

「幇助」。「騙されて・付け込まれて手助けしてしまう」モチーフ。「31の機能」では犠牲者自身が悪人に対してしてしまう行為ですが、「脅す」「仄めかす」あるいは「甘い言葉で騙す」「弱みに付け込む」といったステップによって機能するので、主人公側がなにかしらの手口でダーティな面を見せる時にも使えるでしょう。「相手をコントロールする技術を使う」「相手を従わせる材料を持つ」事が「幇助」を機能させる条件になるので、手伝わされるキャラクターにはそれなりの理由が伴います。「どう見ても悪人だが実は……」というバリエーションもあり、「不在」「探査」「漏洩」でもそうですが、「逆行する感じ」によってスムーズに話を進展させない、「障害」や「難題」、「虚偽の認識」を利用した盛り上げ方、意外な展開を演出しましょう。しかしまずやらなければならないのは「意に反して手伝わされているキャラクター」をきちんと作り作品に組み込むという事です。

「悪計」は「31の機能」では「幇助」の前段に当たりますが、物語作りにおいてもっと一般的な意味に敷延すると「悪だくみ」。ともあれ悪い事を企み仕掛けていくにはそういうキャラクター性があってこそなので、「こいつは悪だくみする奴」というキャラクターメイキングがなければ実現しません。逆に「誰も悪だくみしていないのにエラい事になる」というストーリーを描く意外性も狙い所の1つですね。

「道案内」。私見ですけど、僕としてはこういう機能が存在するという事そのものがちょっと面白いんですよね。無くても良さそうですけど単に途中までの道のりを地図や情報で知るのではなく、「キャラクター」を噛ませて一体化させている。「行き方や場所を知っている」「そこに導ける」事が物語上の重みになり、またキャラクター自身の存在の仕方とも関わるこうした特徴そのものが、物語らしさを感じさせるものとして効果を発揮する。何故知っているのか、どうしてそんな事が出来るのか(また「何故他の人には出来ないのか」)、気になる所ですしきっと盛り上がるので、この点はうまく使いたいですね。



ここで一旦「謎」について触れておきます。「真相の解明」の前段階である「虚偽の認識」、「結果」として「回収」される「伏線」、「逆行する感じ」を生じさせる2つの要素の内先行して提示される一方等と同様に、「遂に明かされる真実」がある事を期待させる「謎」があります。「謎」は「虚偽の認識」と違って「疑問」や「不明な部分」でありキャラクターや受け手をわからない状態に置いたまま宙吊りにします。そうした一種の「保留」状態がいつまで続くのか、どこまで続けられるのか、「謎」が解けた後「更なる謎」は現れるのか、それは受け手に受け入れられるのか、様々なポイントがありますが、今回取り扱っている「不在」「探査」「漏洩」「幇助」「悪計」「道案内」「照準」「根拠のないみせかけ」全てに「謎」を組み合わせる事が出来ます。所謂「引き」に使えるだけでなく受け手の予想や読みを外して意表を突いたり、展開に困ったり急場を凌ぐ際「何故こんな事を?」「どうしてそんな物が?」という形でこれまでの積み重ねをひっくり返すような状況を生み出す大幅な設定変更を行う等の手段でもある、という点は覚えておいて損はないでしょう(そういう苦肉の策として「謎」やどんでん返しを用いるべきかという問題も当然ありますけれども)。



「照準」は「対象を『それ』として認識する行為」であるだけでなく、どうやら「対象に『お前は‘それ’だ』と認識させる行為」でもあるようで、「覚えてろ!」「いつもいつも邪魔ばかりしやがって」「またお前か!」「(惚れた……!)」「あの、お名前を……」「お前達の好きにはさせないぞ!」「今度会ったら必ず決着をつけてやる」「(楽しませてくれそうだな)」「何て奴だ……」「ふむ。お前さん、ボクシングをやってみんかね?」等の科白で表現されるシーンをよく見かけます。これはキャラクターに「わざわざそれを言う」という要素を組み込まなければ成立しないので、言いそうにない性格のキャラクターの周囲にはお喋り好きで軽い性格のキャラクターとか、つまり狂言回しを付ける事になるでしょう。「『照準』される」側の反応で関係性とその後の展開を作ったり暗示したりといった利用法もあります。

「根拠のないみせかけ」。「申し開き」のシークエンスで、ジャンルとしては「法廷物」という形式で確立していると言えそうです。メインテーマとして十分な「巧妙さ」は必ずしも必要ではなく、極端な話「すぐバレる嘘を吐く」程度でも成り立つ機能ですが、そこそこの手応えのある物を用意できるようになると反論のプロセスが盛り上がり、「難問」→「解決」を機能させる事が出来るものの、相応の頭の良さが必須になるのでその分大変になり、またその分やりがいもあるのではないでしょうか。単に練習として作るのであれば「とりあえず下手な言い逃れをして懲らしめられるキャラクター」が騒動を起こすプロットを立てて動かしてみて、ディテールの描き方を研究してみる位で十分でしょう。


リアリズムについて。例えば刑事役のスティーブン・セガールが序盤から敵の本拠地に乗り込んで「こんな事件があったがお前がやった事は分かってる。必ず証拠を挙げてブタ箱にブチ込んでやるぞ」と余計な事を言うシーンがあるとして、リアリズム的に見ると論外なこの場面こそ物語的には「照準」として成立している為、フィクションとして非常に面白く又意味不明の説得力のある(?)シーンになっています。

それが何であれ構造ユニットに根拠付けられた場面はリアリズムを越えるので、遠慮なくかましてやりましょう。



続きます。




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比那北幸@批評
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