departure-Ep4
ep紹介:
落ち込んでしまう時、何もやる気がいきない時、対処法が欲しい。外に出て、街を眺めて、好きなコーヒーとケーキを食べる。それで少し心が晴れるかもしれない。舞台は前回から時間は少しだけ進んだ3年目の秋。
学生時代はよく寝ていました。
ある時、いつもと同じようにように寝てたら、
たまたまyoutubeで千鳥の大吾さんのインタビューを見たんです。
インディードのCMで大吾さんがワンピースのキャラクターに扮した時のインタビューなんですけど、
そこで、若い人に対して、メッセージをお願いしますっていう、のがあって、
そこで大吾さんは、あんまり寝ないことって言うんですよ。
寝すぎだよって、寝てるんだったら、働いた方が得られるものがある。的なことをおっしゃるんですけど、
その時、すごくはっとしたんですよ。
で、また寝続けるっていう。
いまだに寝てます。
第4話 運休 レッドベルベットケーキ
イギリスに来て二年が過ぎた。
ついた当初は想像もしていなかった、暗い毎日。
肺に鉛が入っているみたいに重い。
気を抜くとすぐに部屋が散らかる。フローリンクの床にはお菓子の袋が散乱していて、中身もこぼれて、足で踏んづけたポテトチップスが粉々になっている。
布団は暖かく、iPadは手放せない。iPadの充電が切れたら、パソコンに切り替えて、ただ流れているYouTubeを聞く。もう外には出たくない。
こんな日が月に何回かやってくる。処方箋はただじっとしていること。下手に活動をすると周りに危害が及ぶ。例えば、頑張って自炊をしようとして卵の入ったボウルをひっくり返し、共同のキッチンの床を汚すとか。
72時間ぐらい現実から自分の意識をひき離すとようやく、精神と肉体のバランスが戻ってくる。
そうなると、ベットから出て、シャワーを浴びて、床の汚いゴミを片付けて、ZARAで買ったお気に入りのギンガムチェックのシャツと、黒のスキニージーンズに赤いフード付きのダッフルコートを着て、外に出る。
空はどんより曇っている。みんなコートがジャンパーを着て、冴えない髪型で歩いている。
私は坂を上がって、城壁内の中心地に向かった。
城壁の中も外も建物は大体3階建ての煉瓦造りが並んでいる。屋根は黒っぽいレンガなのだろうか、私にはわからない。
アジア人のお姉さんが足を組みながら施術してくれる、安っぽいネイルサロンに、
サブウェイ、ケバブ屋、ウォック・アンド・ゴー、
ウォック・アンド・ゴーでは、箱に入った中華料理が持ち帰れる。
右手に急に80年代に建てられたみたいな古いビルが出現する。
Story House という名前で、中に劇場があるらしい。
それから図書館も併設されているけど、対して大きくないし、二階はほどんど子供用の本しか置いていない。
Story Houseを通り過ぎて、フィッシュアンドチップスの試食のお兄さんを通り過ぎて、
Chesterクロスという交差点にぶつかる。
この交差点のほぼ中央に、エジプトのオベリスク、ではないけれど、柱が立っている。何の意味があるかは知らない。
交差点を直進して、さらに進む、
道の両端にはカフェやレストランが並んでいる。
他にもネイルサロンや、美容院、チョコレート屋、いつもおしゃれなショウウィンドーの小さな古着屋があったりする。
次の交差点の少し手前に私のお気に入りのカフェがある。
田舎のこの街に似合わない、ロンドンのノッティングヒルあたりにあっても全然おかしくない、おしゃれなコーヒー屋さんだ。
名前はジョンティー・ゴートという。
外装は木材を白く塗った感じで、
外のベンチにふわふわの大型犬を連れたおじさんがコーヒーを飲んでいる。
大型犬はお利口さんに座っている。
店内に入ると、ショーケースの食べ物に目がいってしまう。
ガラスのケースの中には、サンドイッチ、が並んでいて、ケースの上には、
レモンケーキ、ブラウニー、クッキー、ショートブレッド。
全部食べたい。
やった、今日は大好きなレッドベルベットケーキがある。
私はレッドベルベットケーキとコーヒーを注文して、席についた。
白いお皿の上に横たわったケーキの端をフォークで少しずつ切り取って口に運ぶ。
お店のロゴが描かれたマグカップからコーヒーを一口飲む。
店内のお客さんはスタイリッシュで、タートルネックのセーターとか、ブラックジーンズとか、ゴールドのアクセサリとか、ショートブーツとか身につけている。しかもそれがPrimarkみたいな安い店のではなく、The White Company で買ったみたいに洗練されて見えるのだ。
この街のどこにこんなおしゃれなが人たちが住んでいるのか、私は不思議になった。
ふわふわでしっとりベタベタのレッドベルベットケーキはどんどん小さくなっていく。
レッドベルベットケーキはほんのりココア味のケーキで、この赤い色はコチニールカイガラ虫という虫から採った色素を使っていると聞いたことがある。
しかし、昨今はベジタリアン・ビーガン運動の影響が大きいため、この店のレッドベルベットケーキの赤い色素は植物系の何かが使用されているのだろう。
本当はこんなところで、呑気にケーキなんて食べている場合じゃない。
来週、課題を提出しなくては
頭の中に数式とギリシャ文字がチラチラする。
肺の中に鉛が戻ってきてしまった。
ああ、私は本当にダメな学生。
せっかく、こんなに好きなだけ勉強できる時間があるのに。
コーヒーを飲み干して店を出た。
元来た道には戻らず、グロブスなーストリートへ向かう。
信号を渡った先にテスコがあるので、入ってお気に入りの紙パックコーヒー(Jimmy’s iced coffee cafe latte Original)
とリンツのチョコバーを購入する。
もう一度信号を渡って、石の階段を上がり、城壁に登る。
この城壁は街の中心をぐるっと囲うようにできている。紀元70年から80年の間、ローマ人が建設し始めたらしい。
そして完成には100年以上かかったという。
また11世紀のノルマンディー公による軍事遠征(ノルマン・コンクエスト)の後、
城壁はさらに拡張され、完全に街を囲うようになった。
城壁からディーリヴァーが見える。ウェールズまで続いている大きな川だ。
お店の裏口や誰かの家の二階や三階の窓を眺めながら北側へ進んでいく。
たまに散歩をしている人や、ランニングをしている人とすれ違うけれど、城壁はほとんど貸切だった。
大聖堂の裏を通り、カナル(街の中に通っている運河)とマレーシア料理のお店,
Slow Boatが見えてきたら、城壁を降りて、冷凍食品のお店Icelandの前を通り過ぎ、横断歩道を渡って新しくできたバスターミナルの中を突っ切っる
すると、今年一年限りの我が家、についた。
第4話を読んでいただきありがとうございます。PodcastとSpotifyでは音声でお楽しみいただけます。次回、第5話でお会いしましょう。
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