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十二国記 『魔性の子』初読みレポート

※1から100まで全部ネタバレしかないよ!自衛してね!

子供の頃から読みたいと思っては、難しいから一旦諦めてを繰り返している作品。そう「十二国記」である。
本当に読むぞと決意してから早2年。読み進めていこうと思う。
Twitterで様々な「おすすめの読む順番」に触れることができた。
シリーズ全部読むという気合は十分なので、EP0である『魔性の子』から『月の影 影の海』へ進もうと思う。


 魔性の子を読み終えてすぐに出た感想は「ホラーというけれど想像よりは優しいホラーだったな」それと「めっちゃ死んだな…」と死亡人数を数えてみるなどした。

 この作品は教育実習で母校に戻ってきた主人公広瀬と不思議な少年、高里の二人が軸になって進んでいく物語だ。この実習で母校に戻ってきたという設定がもう度肝抜かれている。ずっと疎外感を感じていた広瀬が母校に戻ってきた。皆さんも一度は母校に立ち寄った際、感じたことがあるのではないだろうか。教室は西から東に一組から四組だったのに、それが逆になっていたり、自分が使っていた下駄箱を思い出せなかったり、校則が変わっていたり、リボンだった制服がネクタイになっていたり…そういう些細な疎外感を読者に対して「そういう母校だったのに、今は変わったな。そういうことあるよね。解るわかる」という共感させておいてから、広瀬の漠然と感じていた”この世界で生きている”ことへの疎外感。私と広瀬のギャップ。そこを補うように、学生時代の担任であり指導教諭として出てくる後藤。そして今、まさに疎外感を感じている高里。理解を得られない周りの人たち。人間の汚い部分をこれでもかと出してくる。ずっと面白い文章がつづく。

 広瀬は自分や高里を故国喪失者だと信じているし、高里はそれに確信があるほど気づいていないけれど何かを思い出したい。故国喪失者だという気持ちを広瀬は止められない。それを自らに押し付けなくていいんだと諭す後藤。
きっと広瀬には間違いなく後藤が必要だった。もっと言えば広瀬ときちんと向き合ってくれる大人が必要だったし、高里にも広瀬が必要だった。けれども広瀬はまだ大人ではないし自分も高里のように未熟である。この構図が美しい。
付け加えると後藤も感情のまま言葉にしてくれるため、(私はそこが好きだが)完璧な善人や清い心を持った人間というものはとても稀有である。ということを物語が一貫している。

 神隠しの話も本当なの?神隠しだとしたらそこは広瀬の帰る場所でもあるの?と読めば読むほど私もわからなくなっていった。読書で作者に踊らされるというのはこんなにも楽しい。
 高里にとって広瀬ははじめて「自分の世界」を理解してくれた人で、生活を直接助けてくれた恩師になるのだろう。高里は広瀬がいなくてもきっと延王が迎えにきて向こうの世界へ連れ去ったんじゃないかと思う。記憶を取り戻したどうかはきっと関係なくあの大洪水は起こったんだと私は解釈した。これを広瀬は高里に対して「選ばれた人」と表現している。
 この選ばれた人というのはとても数が少ないものであって、広瀬はそこにたまたま介在しただけ。そのようにも取れた。最後のシーン。広瀬が高里に対して感情を吐露するシーン。今まで読んできた広瀬は一貫して大学生らしからぬ大人びた態度でいたのに、はじめて「俺はどうなる!」と声を上げる。高里もそれに対して戸惑いを見せる。広瀬が「この世界に未練はないのか」と問うた時も、高里は広瀬のことを見つめて、目を背ける。高里にとっても広瀬を「置いていく」という感情が幾分かはあるように読み取れる。広瀬に大丈夫だよ。伝わっているよ。と言ってあげたいし言わなくてもきっと彼らは理解してる。多くを語らないだけで。お互いが別れを惜しんで前を向く姿は、とても短い時間に感じられるけれど、二人にはそれだけで充分だったのだと思わされた。後藤から「みんなどこかへいきたがってるんだ」と言われ、いつかこの気持ちを決別しなけらばいけなかった広瀬が高里の言葉に大きく頷く。高里も広瀬に対して深く頭を下げる。
こんなに美しい話があっていいのか……

どこかここではないどこかへ。きっと自分はそこにいるべきだと感じている広瀬はは「そちらの世界がある」という事実を知りながら生きていく。しかし自分は選ばれなかった。と理解してしまう。葛藤の中歩き出した広瀬に幸多からんことを。


余韻に浸るために読書感想というものは存在していると思います。
次はEP1『月の影 影の海』です。情緒がおかしくなりそうだね。




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