須賀しのぶ「革命前夜」の書評(ネタバレあり)
文章を書く練習として、日々思った雑多なことを書き散らかそうと思う。
書店の注目書のコーナーに積まれてあり、そそるポップが貼ってあったので、手にとってみた。
初出は2013年だそうで、文庫版になっても二版目だという。こんな小説があったとは知らなかった。
少し前から、東欧革命に興味を持っており、元々クラシック音楽も好きなので、好みにぴったりマッチした物語だった。
物語の時代、私はちょうど高校に入学したばかり。
ベルリンの壁崩壊があったことは、ニュースで知ったはずだが、当時は「へえ、すごいな」程度で、特に感慨もなかったように思う。
その時、東欧諸国はまさに激動の時代で、早くから改革が進んでいたハンガリーやチェコに対し、東ドイツ(物語の中ではDDRと呼ばれる)は頑なに自由化を拒み、ゴルバチョフの失笑を受けてもなお、社会主義体制を維持しようとし続けていたことは、最近になって知った。
それが、とある党幹部の思慮の足りない発言により、かの有名なベルリンの壁崩壊を引き起こすという展開は、ダイナミックすぎる。
東欧革命は、実に興味深い。
当時、実際に日本から東ドイツに留学していた学生はいたのだろうか。
社会制度が全く異なる国での生活は、色々と戸惑うことが多かったのだろう。
新しい生活は、希望に満ちたものであるはずなのに、東側の冬の街の描写はどうしても灰色で暗く、初めての経験や、出会い、味にさえも、不安と不自由がつきまとう。
シュトロイゼルクーヘンも、あまり美味しそうには感じられなかった。
主人公は本業のピアノでも、個性的な登場人物たちが複雑に織りなす人間関係に巻き込まれつつ、しっかりと苦悩する。
社会主義体制の中で育った若者には、選択肢が限られているだけに、「この道しかないのだ」というような覚悟が必然的に備わるのだろうか。ただ一人放り込まれた西側の若者は、その中で残酷な事実を突きつけられる。
主人公は親の敷いたレールを離れ、自身の意思で決断してこの国にやってきた。その結果、自由のない国で必死に戦ってきた者に、自分の顔が無いことを思い知らされるのだ。
自らが憧れた音楽が、そこにあるにはあるが、それを奏でる人々は、心の奥に極端な絶望と希望を同居させている。真剣さが違うのだ。
どうすれば、ここで理想の音楽を、自身のものにすることができるのか。
主人公はその答えを、偶然出会った一人のオルガニストが奏でる天使のような音楽に見出そうとする。
そうして苦悩した結果、主人公がその希望の糸口をつかめたかどうかさえ、物語の結末では明かされない。
物語はベルリンの壁崩壊の時点で突然終わる。
その後、西側に脱出したオルガニストや、監視者だったヴァイオリニスト、東側に残ると決めた父の文通相手の孫娘や、主人公自身の音楽が、壁崩壊後の混沌のうちに、一体どういう運命を辿ったのか。
読者の想像で埋めるには、あまりにも多くの気掛かりが残る。
この作者が、この後どういう展開を想定していたのか、知りたくなる。
続編希望である。