小脳性運動失調について
小脳性運動失調には実は複数の種類があります。
これを聞いて「え、手足が揺れたりとか体幹が揺れたりするだけじゃないの?」と思う方もいるかもしれません。
実際それも正解です。
ただ、皆さんがよく臨床で見る小脳性運動失調にはより細かな種類があり、
それを理解した上で臨床に臨んでいただけると、
また1つ見え方が変わってくるのではないかと
思います。
小脳の機能解剖
まずは,失調のお話をする前に少しだけ機能解剖のお話をさせてください.
小脳の機能解剖は大きく大脳小脳(小脳半球),脊髄小脳(小脳中部),前庭小脳(片葉小節葉)の3つに分けることができます.¹⁾²⁾³⁾
そして,それぞれに関連する4つの小脳核とその小脳核をとおる3つの神経回路があります.²⁾
それを踏まえた上で確認していきましょう.
大脳小脳(小脳半球)
説明:大脳皮質からの情報が橋を介して伝えられ,小脳半球で統合されて視床(VL)を経由し再び反対側の大脳皮質に出力される.
運動の計画や円滑化に働くと考えられ,四肢の運動の調節に関わる他,最近では言語などの高次機能にも関わることが示されている.¹⁾
神経回路:大脳小脳神経回路(協調運動や認知情動面に関わる回路)
関わる小脳核:歯状核
系統発生学:新小脳 (neocerebellum)
脊髄小脳(小脳虫部)
説明:筋や腱からの意識できない深部感覚が,脊髄小脳路または楔状束小脳路などにより脊髄から小脳虫部と中間部に伝えられる.
脳幹を経由し脊髄に出力され,姿勢や歩行の調節など主に体幹の動きの調整に働く.¹⁾
神経回路:脊髄小脳神経回路(筋緊張をコントロールするのに必要な回路)
関わる小脳核:球状核,栓状核
系統発生学:旧小脳 (paleocerebellum)
前庭小脳(片葉小節葉)
説明:内耳の前庭器から前庭神経を通じて,頭の位置や傾きに関する情報が片葉小節葉に伝えられる.
出力は主に眼球運動系の核や脊髄に送られ,平衡や眼球運動の調節に関わる.¹⁾
神経回路:前庭小脳神経回路(身体のバランスや眼球運動に必要な回路)
関わる小脳核:室頂核
系統発生学:古小脳(archicerebellum)
運動失調
さて,ここからは本題の運動失調を各小脳の機能解剖別に
説明していこうと思います.
大脳小脳の失調
測定異常(dysmetria),測定過多(hypermetria),運動の分解(decomposition),
反復拮抗運動不能(adiadochokinesis),筋緊張低下,リバウンド現象,眼振,
時間測定異常(dyschronometria)³⁾変換運動障害,構音障害(断綴性言語)¹⁾
などがみられる.
脊髄小脳の失調
脊髄小脳は上部虫部と下部虫部に分けられる.
上部虫部:歩行の協調に必要な部分である.
歩行は失調性となり,バランスの崩れを防ぐためにwide-baseとなり,さらに上肢を広げてバランスを取る.歩行のリズムも崩れ,一直線上の継ぎ足歩行は困難である.
下部虫部:体幹の運動の協調や平衡機能に関与している.
平衡障害が顕著に出現し,立位をとるだけでも前後上下にがくがくと動揺し,ひどくなると立位保持のみならず座位での体幹の保持までも困難になる.上部虫部障害時と同様にwide-baseであるが,より大きく広げる傾向になる.これらの症状はtruncal ataxia,がくがく震える現象はtruncal titubationと呼ばれる.歩行では,強い失調性で酩酊様の歩容を示す.言葉が2~3音ずつきれぎれに発せられ(断綴性言語(scanning speech),titubation(よろめき・揺動)が言語に現れたものとみることができる.³⁾
前庭小脳の失調
前庭眼反射異常,眼振,滑動性眼球運動(smooth pursuit movement)の異常,衝動性眼球運動(saccaidic eye movement)の異常,眼球測定異常(ocular dysmetria)³⁾などがみられる.
以上が小脳失調で見られる現象になります。
評価
最後に失調の評価についてお話しします。
つぎ足歩行
軽度失調歩行をスクリーニング
明らかな酩酊歩行などが見られなくても,小脳障害をスクリーニングできる.
高齢者は多少の障害があるため注意が必要.¹⁾
鼻指鼻試験
上肢の協調運動障害をスクリーニング
患者の示指で,患者の鼻先と検査者の指先を交互に触れさせる.
検査者は1回ごとに指の位置を変える.
患者の示指の動き,振戦の出現を観察する.¹⁾
踵膝試験
下肢の協調運動のスクリーニング
患者に背臥位になっていただき,患側の踵を足関節背屈状態で対側の膝に乗せていただきそのまま脛を沿って足首まで真っ直ぐに滑らせる.
※膝叩き試験を行うこともある.¹⁾
手回内・回外試験
変換運動障害のスクリーニング
両肘を軽度屈曲していただき,前腕を挙上させたうえで手関節の回内外を最大速度で行なっていただく.
※膝打ち試験を行うこともある.¹⁾
躯幹協調機能ステージ
SARA
カットオフ値は8点以下で独歩可能,8点以上で歩行介助⁶⁾
終わりに
私も初めは小脳失調は手足や、体幹が揺れるものをいうのだと思っていました。しかし、様々な文献や教科書を読むことで失調に対する見方が広がり、患者様の失調に対する主訴への寄り添い方や考え方が変わりました。また、アプローチも失調
一つ一つに丁寧に介入するよう心がけられるようになりました。
※最後までご拝読ありがとうございました。
これは一個人としての知見であり、内容全てが臨床の現場で必ず当てはまるものではありません。
ただ、これからの皆様の臨床のヒントに、少しでもお役に立てば幸いです。
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