お米をテーマにモノを売ることについて考える(4)~当たり前は当たり前でない
こんにちは。お元気ですか。先日、久しぶりにデパートの地下食料品売り場へ行きました。ずらりと並ぶ商品はキラキラと輝き、興奮することしきり。ところがベーカリーによると、すべてのパンが白いグラシン紙で個包装されていました。パンが見えない…。
以前は当たり前だった美しい光景が消え、これでは買う気も失せるわね。と思いきや、中のパンが見えないことで逆にそそられ、つい、いつもより余計に買ってしまいました。この「当たり前は実は当たり前ではない」体験は大変新鮮でした。
そんな折、懇意にしているお米屋さんから、あるお客様の話を聞きました。昨年のお米の買いだめ騒動(2020年3月)のときに初めて来店された方々のことです。
40代とおぼしき女性はおずおずと切り出しました。
「まとまった量を買えますでしょうか。どこも売り切れで…」
「もちろん大丈夫ですよ!」
「ああっ、よかった、ほんとによかった、ありがとうございますッ」
女性は泣きそうな顔になりました。聞けば彼女は介護施設の職員で、それまでは量販店へ自ら車を運転して買いに行っていたそうです。それも重くて運べないから一日に何往復もして。これにはお米屋さんが驚きました。
「そりゃあ大変だったでしょう。毎月配達しましょうか」
女性は目を丸くしました。米店が配達することを知らなかったのです。それも(まとまった量なら)送料無料で。
別の日には子どもを連れた若い男性が来客し、いちばん安いコメを買って帰りました。一か月ほどして、男性が再び来店したときのこと。お米屋さんは前回のコメの感想を聞きました。すると男性は堰を切ったように話し出しました。
「正直、コメなんてどれでもいいと思ってたんスよ。だけどここのコメ食べたらマジ旨くて!コイツ、食が細くて心配してたんだけど、おかわりするようになって」
「そりゃあよかったねぇ」
「米屋がはあるのは知ってたけど、めっちゃ高けぇんじゃねぇかと思い込んでたみたいで。ホントすんません」
「そうかい。ウチは高いコメもあるけれど、この間買ってくれたコメみたいに、スーパーとほとんど値段が変わらないのも置いてあるからね。店頭で精米するし、まあ味は全然違うと思うよ」
「ですよねー。オレ、米屋はパックされたものを売るだけだと思ってたんで、ココでガーッと精米してくれたのもすげぇ新鮮でー」
…という長い話の中でお米屋さんは何度も、「いやあ、米屋っていうのはこんなに知られていないのかと反省したねぇ」と首を振りました。
あなたのお店にも、このようなお客様が来なかったでしょうか。彼らはコロナ禍が無ければ来るはずのなかったお客様です。今までコメに興味がなく、ましてや米店のことも知りません。わたしが調べた限りでも、誤った認識を持つ人は少なくありません。そもそも現在、お米を米店から買う人は2%くらいしかいないというデータがあるくらいですから、これも致し方ないことかもしれませんね。
米店への誤解は例えば、米屋は卸売りで一般人は買えないとか、あるいは「配達」は「デリバリー」や「宅配」とは違う意味だと思っているなど。
それほどお米屋さんにとっての「当たり前」は、お客様にとっては「当たり前ではない」のです。新しいお客様の声は貴重なメッセージです。
思うにお米屋さんのみなさんは、これまで工夫を積み重ね、努力を続けてきました。それはとても価値のある大切なことです。効果もあります。
けれども、世の中は新型コロナウイルスで大きく変化しています。積み重ねる努力だけでは対応しきれないことも多くなっているのです。
お米屋さんにとっての常識を持たない、新しいお客様の視点に立ちましょう。いままでとは異なる一歩を踏み出す勇気を持ちましょう。
では次回までお元気。ごきげんよう。
~たにりり(お米サービスデザイナー・商経アドバイス契約コラムニスト)
「料理がわかるごはんソムリエ」として、お米に携わっている人・毎日お料理する人を応援しています! ◆著書「大人のおむすび学習帳」
※このコラムはお米の専門新聞「 商経アドバイス 」2020年6月15日号に掲載されたものを一部改編して掲載しています。最新号はぜひ購読してお読みください。お米屋さん向けに書いていますが、農家さんなど直販生産者やお米以外のモノを売っている方にも、何かしらのヒントになると思います。よかったらどうぞ続けて読んでくださいね。
※題字とイラスト:ツキシロクミ
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