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オフィスひめの通信 16号

執筆:西澤真生(ひめのともみクリニック医師)
発行月:2011年10月

-栄養療法に何が出来るか 生・老・病・死-

-がんとの共生-
 がん細胞が目に見える大きさになるまで長い期間かかること、がん細胞の原因となる遺伝子や細胞膜の異常にはフリーラジカルや活性酸素が関わっていること、免疫細胞ががん細胞を排除しようとする機構が働いていることなどを説明してきました。今回は「がんは慢性疾患である」をキーワードにがん細胞との付き合い方を述べていきたいと思います。
 がんの治療法がまだ少なかったころは、治らないというイメージが強く医師も家族も本人に本当の病名を伝えるか深刻に悩んでいた時代がありました。その後、本人に病名をしっかり伝えて一緒に戦うという時代が来て戦い方も様々に進歩しました。そして現在は戦うだけではなく共生する時代が始まっています。治療法も医師が決めるのではなく自分で考え決める時代が来ています。
 3回シリーズでお話ししたかったことは、一般の方々が自分の体のことをよく知り病や老いを含めた自分の人生を自分なりに構成していくことの大切さです。がんは長年かけてかかっていく慢性疾患の一つに過ぎません。脳梗塞と同じように予防をし、糖尿病と同じようにコントロールしていくものであり、最終目的は自分らしい幸福な人生です。
 がんの予防と他の慢性疾患の予防法は驚くほど似ています。フリーラジカルや活性酸素の抑制と消去、炎症の防止、正常な細胞の機能の維持、免疫機構の正常化です。自分の弱点に早く気づき、補強し修正することが大切です。
 ただし、がん細胞の塊が目に見えるほど大きくなってしまった場合、いくつか特別な対処が必要となります。というのもがん細胞には厄介な性質があるからです。例えばがん細胞は食欲をなくす物質を出し、栄養を自分に都合よく利用し、体の正常な代謝を攪乱してしまいます。その結果、本来の体はかなりの栄養不足になります。
 栄養療法では、体の正常な部分に十分な栄養を送り込むことを試みます。特にがん細胞によって壊されカロリーに変えられてしまうたんぱく質の補給が重要になります。カロリー不足はたんぱく質が壊れる原因になるのでカロリー補給も大切です。たとえば夜食にご飯を食べるといった工夫も必要になります。同時にエネルギー産生や物質の合成の要となるビタミンB群、ナイアシンや鉄、抗酸化作用をもったビタミンCも補給します。ビタミンCには免疫強化やがん細胞への直接作用もあります。しっかり栄養補給をして体の機能を回復すればがん細胞がいても元気に生活することが出来ます。
 通常のがん治療は悪さをするがん細胞の数を減らすという点で有効です。早期発見して手術や放射線療法を上手に使えば完全にあるいはかなりの量まで減らすことが出来ます。化学療法は、今のところがん細胞を完全に除去出来ていないので、再発を見据えた治療が必要となるでしょう。これらの治療をする際にも、栄養療法は大いなる威力を発揮します。たとえば手術の傷の治りがよくなり術後の感染症を防ぐことが出来ます。放射線療法との併用では、副作用の吐き気やだるさ、下痢を軽減することが出来ます。転移や再発も起こりにくくなります。
 病気であっても快適な生活をして自分の能力を発揮するためにはどうしたらよいか、を起点に考えると、在宅介護の整備であったり、金銭面の不安の解消であったり、痛みや呼吸困難の緩和ケアであったりと、やらなければならないサポートがたくさん見えてきます。
私たちは体の元気を支える栄養療法によって皆さんが自分らしい人生を歩んでいくお手伝いをしたいと思っています。


ナイアシンの話 2 ~ナイアシンは何をしているのか~

 抗うつ剤として現在使われている薬の多くは、神経と神経の間に分泌されたセロトニンやドーパミンの取り込みを遅くして効果を長持ちさせることにより効果を発揮します。いわばリサイクル・リユースです。でも合成量そのものが足りなければ、長期間薬を服用しなければならなかったり、薬の効き目が不十分だったりします。
 自前のセロトニン分泌を増やすためには何が必要か?その鍵はアミノ酸と鉄とナイアシンにあります。ナイアシンはセロトニンを合成するときの補酵素として活躍しています。
 ナイアシンが薬よりも安全な理由は、セロトニンの合成量が体内できちんとコントロールされているからです。不足の場合は調整出来ませんが、多すぎる場合は体が自分で調節するので過剰になる心配はありません。
 ナイアシンの利点はもう一つ、睡眠ホルモンを同時に正常化することです。睡眠に重要なメラトニンの多くはセロトニンから合成されています。うつの時には睡眠にも問題があることが多いのですが、ナイアシンは自然のリズムを取り戻し睡眠を改善します。
 ナイアシンの活躍の場は大変広く、必要量も個人個人で大きく変わります。たとえば、あまり知られていない重要な働きとしてエネルギーの運び手としての役割があります。エネルギーは最終的にATPという形をとります。このATPを産生する電子伝達系に電子を運ぶ役割をしているのがナイアシンから出来るNAD(H)やNADP(H)です。NAD(H)、NADP(H)は酵素の約20%、約500種もの酸化還元反応に関係しているのでナイアシンの量が体内の多くの活動を左右していることがわかります。
 ナイアシンにはそれ以外にも遺伝子の修復を調整したり神経周囲のミエリン鞘を正常化したりと多彩な働きを持っています。
 前回、ナイアシン欠乏によって皮膚、消化管、脳に影響が出る話をしましたが、ナイアシン欠乏が広範囲に影響を与える理由がこれでお分かりいただけたと思います。
 ビタミンCと同様、ナイアシンも必要量の個人差が大きい栄養素の一つです。厚労省が発表しているナイアシンの一日所要量は成人男性16mg、成人女性13mg。栄養療法の効果を見ながら調節していくと人によっては3000mg以上必要となることがよくあります。実に200倍もの違いがあります。
 ナイアシンにはナイアシンとナイアシンアミドの形があります。日本人の場合大量のナイアシンを摂ると血管が拡張して顔などが真っ赤になるホットフラッシュの症状が出ることがあります。サプリメントで摂る時はナイアシンアミドの形で摂りましょう。


~食事療法の嘘? 本当?~

-脂質代謝 2-
 前回、脂質には大きく分けて中性脂肪とリン脂質、コレステロールの3種類がありそれぞれの形や働きも違うことを説明しました。今回は吸収された脂質がどのような経路をつかって運ばれるかを見てみましょう。
 小腸で吸収された脂質はすぐにたんぱく質と合体しリポ蛋白という塊をつくります。脂質が血液中を移動する時にはたんぱく質といつも一緒です。全身を回って中性脂肪やリン脂質を配って回ります。全身に早く配りたいものは外側に配置されます。(図1)中性脂肪やリン脂質などは一回全身を回っただけでほとんどが細胞に荷降ろしされます。

図1 リポ蛋白の基本構造模式図 厚生省・日本医師会編;高脂血症診療の手引き

 リポ蛋白の中央は脂溶性ビタミン(ビタミンAやE)、コレステロールなどがしまわれていて蛋白と一緒に肝臓に取り込まれます。肝臓では、必要に応じてコレステロールや脂肪が合成され再びリポ蛋白の形で全身に運び出されます。1日に必要なコレステロールは食品に含まれる量だけでは足りず食べた量の2~3倍肝臓で合成されていると考えられています。

図2 Lipophar homepageより

 血液中のコレステロール、中性脂肪は実際にはリポ蛋白を測定しています。図2のようにリポ蛋白は脂質を細胞に配っていくにつれて密度や大きさが変わります。密度が変わると名前が変わります。悪玉といわれるLDLコレステロールも善玉といわれるHDLコレステロールもリポ蛋白の一形態です。HDLコレステロールはコレステロールを回収する力が強いので善玉と呼ばれるようになったのでしょう。 
 肝臓にはコレステロールの合成量を調節する機構があります。食べる量が多ければ合成量が自然に減ります。したがってLDLコレステロールが増えるのは食べるコレステロール量が多いからではありません。細胞が中性脂肪や脂肪酸をうまく受け取れない時(内臓脂肪の増加など)と血液中の活性酸素が増えてリポ蛋白が変形してしまった時です。そして内臓脂肪の増加と活性酸素の増加には血糖値の急上昇がおおいに関わっているのです。
 次回はいよいよ糖質制限食と高脂血症の関係に迫ります。ご期待下さい。


暮らしに役立つ栄養療法-お腹の不調を感じたら 1~
小腸の栄養~-

 暑さがようやく和らぎ食欲の秋となりましたが、夏の終わりごろからお腹の調子がどうも優れないという方はいらっしゃいませんか? 
お腹の夏バテかもしれません。

東海大学 デジタル標本箱より

 小腸は栄養の消化吸収の要!自律神経やホルモンを通じて全身に指令を出したり、口からの侵入物に対する砦として防御機構を担っていたりします。
 大忙しの小腸細胞はつねに活発に細胞分裂を行っています。細胞分裂にも消化吸収にもたくさんの栄養素が必要です。小腸はぶどう糖ではなくグルタミンやポリアミン、短い脂肪酸などを栄養としています。もし小腸がぶどう糖を消費するとしたら体内に吸収するエネルギー源が減ってしまいますよね。これも体の知恵の一つですね。グルタミンやポリアミン、脂肪酸などのエネルギー源や細胞分裂のための栄養素が不足すると小腸の絨毛(上図)は短く薄くなって消化機能も衰えてしまいます。
 食欲がないからといって消化のよいものばかり食べているとついついたんぱく不足になり胃腸が弱ってしまいます。食べられる腸を作るため、少量のたんぱく質やアミノ酸を何回かに分けて食べていきましょう。 


サプリメント小話-ナットウキナーゼ-

 栄養素以外にはどんなサプリメントがあるのか? そんな疑問にお答えするコーナーです。今回はナットウキナーゼの紹介です。
 ナットウキナーゼは、名前から想像されるように納豆からみつかった酵素です。納豆菌によって作られ血栓を溶かす働きがあります。1980年須美先生が発見しました。ナットウキナーゼは直接血栓を分解するほか、体内にある血栓を溶かす物質を活性化します。
 脳梗塞などの時に使用されている血栓溶解薬は数分から数十分で効果が消えてしまいます。それに対してナットウキナーゼは、個人差はあるものの4時間~12時間効果が持続します。出来た血栓を溶かすだけなので出血という副作用もありません(ただし他の薬と併用するときは若干注意が必要です)。
 小さな血栓は気付かないうちに毎日出来て自然に消えています。納豆菌の作るナットウキナーゼは小血栓を溶かすので血流を維持し小さな梗塞を予防するのに大変効果的です。脳梗塞は夜中や明け方に起こりやすいので、持続時間から逆算すると寝る前に約100gの納豆をよく混ぜて食べる必要があります。よく混ぜるのは「ねばねば成分」でナットウキナーゼを覆って消化による分解を防ぐためです。サンプルで調べたところ納豆の製品によっては含まれるナットウキナーゼの量に多少のばらつきがありました。
 夜に納豆を食べるのは大変!という方はサプリメントを利用するのも一つの手でしょう。夜間や明け方の梗塞予防には就寝前の服用が、1日中効果を持続させたい場合は1日2回の服用が効果的です。


※刊行当時の内容のまま掲載しているため、現在の状況とは異なる記述もあります。


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