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オフィスひめの通信 32号

執筆:西澤真生(ひめのともみクリニック医師)
発行月:2013年4月

-病気はなぜ起こる? 肺の炎症と病気 1-

 花粉症の季節の到来です。今年は花粉だけでなく大気汚染物質も飛来する可能性が高くアレルギー性の鼻炎・気管支炎・気管支喘息、心臓病などの危険性が高まると心配されています。ニュースでよく取り上げられるPM2.5とは 直径が2.5㎛未満の、空気に含まれる微小粒子のことです。
 測定技術が未熟な時代には小さな粒子濃度を正確に測定することが難しくPM10(粒子径10㎛未満)を測定していましたが、小さな粒子はより肺の奥まで入り込み病気を深刻にするため現在の日本では粒子径の小さいPM2.5を 大気汚染基準にしています。

http://www.nosmoke55.jp/action/1302pm25.htmlより

 PM2.5はどのようにして疾患を起こすのでしょうか? まず小さな粒子が気道を通って細い気管支や肺の奥(肺胞)に沈着します。沈着した粒子は体にとって異物なので炎症反応を起こします。炎症の場所では白血球が活動する結果、活性酸素が出たり粘液の分泌が増えたりします。治るとき瘢痕を作ったりすることもあります。本来こうした炎症反応は体を守るために大変重要なものですが、肺や気道の 炎症は痰、咳などの症状や酸素の取り込みにくさにつながります。また微小粒子は肺の炎症だけでなく交感神経の 興奮や全身の炎症を引き起こし心臓や全身の血管にも病変を起こしやすくなります。
 PM2.5は石油や石炭の燃焼や自動車の排気ガスだけでなく喫煙によっても排出されます。特に屋内での喫煙はPM2.5濃度がかなり高くなります。(「受動喫煙とPM2.5」に詳しく説明しましたのでご覧ください。)
 肺や気管支の病気では炎症の起こる場所や起こり方に よって症状が変わります。次回からは肺の疾患それぞれについて特徴を詳しく見ていきましょう。
(謝意:本コラムと「受動喫煙とPM2.5」の資料は日本 禁煙学会の提言から引用させていただきました)

出典http://heart.bmj.com/cgi/content/full/89/12/1383 (和訳など一部改変)


特別企画:受動喫煙とPM2.5

 大気汚染でにわかに関心が高まったPM2.5。屋外の濃度は測定結果が公表されていますが屋内の濃度についてはあまり関心がないようです。
 図は日本禁煙学会がまとめた喫煙によるPM2.5の濃度です。これによると完全分煙のファーストフード店でも32㎍/m3、自由に喫煙出来る居酒屋では568㎍/m3とかなり高濃度になっていることがわかります。喫煙者だけでなく同じ室内にいるお客や従業員は受動喫煙としてこれだけのPM2.5の被害を受けることになります。特に従業員は長時間仕事をするためより影響が深刻です。
 日本では公共の交通機関や路上での喫煙はかなり規制されてきましたが、飲食店の規制がなかなか難しい状況です。
 喫煙は吸っている本人にも様々な健康被害をもたらすことがわかっているので禁煙が一番の解決方法です。
 喫煙がやめられないのはニコチン中毒という病気です。禁煙補助薬やニコチンパッチなどを使用することによりそれほど苦労なく中毒を克服した方がたくさんいらっしゃいます。「意志が弱くて…」と先延ばししている 喫煙者の皆さん、自分の周囲に大気汚染を作らないよう今からでも禁煙してみませんか?

日本の様々な飲食サービス業店内(車内)のPM2.5濃度
http://www.ajpm-online.net/webfiles/images/journals/amepre/1751/pdf http://www.tbcopic.org/pdf/chirashi_omote.pdf


暮らしに役立つ栄養療法 -副腎疲労症候群 1-

 副腎は腎臓の上についているホルモンを産生する臓器です。生命維持に欠かせないホルモンが分泌され特にストレス時には分泌が盛んになります。ストレスが続くと副腎が疲弊してホルモンの分泌予備力が低下し耐えきれずに症状を起こします。
 副腎の疲弊による症状を副腎疲労症候群と呼びます。典型的な症状には、とにかく疲れやすい、話をするのも億劫、血圧が下がりやすい、月経前にイライラしやすい,元気を出すために毎日甘いものを食べるなどがあります。一般にはストレスが多く不規則な生活をしている人に多いのですが、親しい人と死別したり仕事上大きな 緊張が続いたりとストレス状態を乗り越えた後に発症する人もいます。またそれほど不摂生をしていないのに若い時から症状が強い方もいます。
 症状を軽減しようと甘いものやコーヒーなどの刺激剤でその場しのぎをするとさらに悪化し無理を重ねれば重ねるほど回復までの道のりが長くなります。強いストレス、いいかげんな食事、不規則な睡眠のリズムも悪化要因になります。
 副腎疲労症候群は一般的な検査では見つかりにくく、血液中のホルモン濃度測定では見逃されることが多いので、副腎疲労を見つけるための検査をする必要があります。

 私たちのクリニックでは、

  • 唾液コルチゾール(副腎皮質ホルモン)の日内変動

  • 血液中のDHEA-S

  • 血糖の変動(5時間糖負荷試験など)

  • 副腎のホルモンの材料となる栄養の評価

を行っています。
 例えば唾液コルチゾールは朝高く昼から夜にかけて下がっていくのが理想的なパターンです。図の患者さんは朝の分泌が低く朝起きられず夜遅くまで仕事をして睡眠の質も悪い状態でした。
 副腎疲労があると血圧や血糖値を維持することが難しくなります。低血圧症の方、低血糖症と診断された方はその背景に副腎の働きが低下している可能性があります。なかなか改善しない方はぜひ一度検査をしてみてください。
 次回は副腎疲労症候群を改善させる食事やライフスタイルについてご説明します。

唾液コルチゾール日内変動
宮澤医院 栄養外来 副腎疲労症候群より引用


※刊行当時の内容のまま掲載しているため、現在の状況とは異なる記述もあります。


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