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オフィスひめの通信 21号

執筆:西澤真生(ひめのともみクリニック医師)
発行月:2012年4月

-病気はなぜ起こる? フリーラジカルと活性酸素-

 今回からシリーズで病気の起こるメカニズムを紹介していこうと思います。1回目は「フリーラジカルと活性酸素」です。アンチエイジングや美容のコマーシャルで酸化や錆びなどの言葉をたびたび耳にすることがあっても病気と結びつけて考えることは少ないのではないでしょうか。しかし分子整合栄養医学の世界では「フリーラジカルと活性酸素」こそが病的老化と多くの疾患の根本原因の一つであると考えています。
活性酸素やフリーラジカルはどのような時に発生し、どのような原理で病気を起こすのかを何回かに分けてご説明していきます。

活性酸素とはなにか?
 
代表的なものには、スーパーオキサイド、O2、ヒロドキシラジカルHO、 過酸化水素、HOOH一重項酸素1O2などがあります。反応しやすく触れたものの形や性質を変えてしまいます。酸素を必要とする反応―ミトコンドリアでのエネルギーの産生や白血球・マクロファージの活動―などの際に多く発生します。

フリーラジカルとはなにか?
 電子を失って不安定になったものをフリーラジカルと呼びます。フリーラジカルは接触した分子の電子を奪うので新たなフリーラジカルを生じます。フリーラジカルの連鎖反応が続くと離れた場所にも影響を及ぼします。
活性酸素やフリーラジカルは接触した相手の性質を変えて時には破壊してしまいます。コラーゲンは弾力性を失い、たんぱく質は機能を失い、細胞膜は間違った信号を出します。遺伝子に到達すると遺伝子変異が起こります。ですからフリーラジカルや活性酸素が発生したら直ちに消去するシステムを持っていますが発生量が消去能力を上回ると問題が起きます。

フリーラジカルや活性酸素を増やすもの
・喫煙 ・排気ガス ・大気汚染物質 ・紫外線
・放射線
・糖尿病や血糖値の急激な上昇  ・内臓脂肪 
・ストレス  ・飲酒  ・風邪などの感染症
・食品添加物  ・化学物質  ・ある種の薬
・激しい運動(アスリートが健康とは限らない!)


虚血はなぜ怖い?

 先ごろ天皇陛下が冠動脈のバイパス手術を受けられました。心筋梗塞の診断や治療法に皆様の関心が集まったのではないかと思われます。心臓の筋肉に酸素や栄養を送る動脈(冠動脈)が動脈硬化を起こして細くなると、心筋梗塞や狭心症の危険が高まります。一時的な血流の低下が狭心症、血流の途絶により心筋細胞が死んでしまう状態が心筋梗塞です。
 心臓の筋肉は昼夜休みなく動いているため酸素や栄養素の供給が途絶えるとたちまち困ったことになります。特に酸素が足りなくなると、15分程度でミトコンドリア(細胞の中の呼吸を担っている器官)の機能が低下し、60分ほどで心筋細胞の変化や筋肉繊維の破壊が起こります。3時間程度でATP(エネルギー分子)を合成する酵素が壊れてしまいます。

聖路加国際病院・心臓血管外科

 今は治療法が発達していますから、心筋梗塞を起こした後で薬やカテーテルにより冠動脈を開通させる治療を施すことが出来ます。ただし血流が再開したからといって手放しに喜ぶことが出来ません。
 ミトコンドリアにはATPを発生させるために鉄を含んだたんぱく質酵素がたくさん存在しています。虚血により酵素が壊れて鉄が露出します。またエネルギー産生の途中で出来た水素原子が行き場を失いうろうろしています。そこに酸素が来ると大量の活性酸素が発生します。この時にビタミンCやビタミンEなど活性酸素を消去する物質がないと組織に大きな傷害を起こしてしまいます。また不整脈も頻繁に起こります。ですから心筋梗塞は起きてから治療するのではなく予防することが大切です。
 太い血管の動脈硬化を推定するには頸動脈エコーが大変有効です。またカテーテル検査をしなくても冠動脈CTなどで冠動脈の狭窄が診断出来るようになってきました。予防には抗酸化ビタミンが威力を発揮します。何事も日頃の備えが重要です。


カルシウムの話1

 カルシウムといえば骨!骨粗鬆症の予防には欠かせないミネラルですが骨にとどまらないカルシウムの知られざる姿についてご紹介していきたいと思います。今回は筋肉の収縮とカルシウムについてです。
 筋肉の収縮・弛緩にカルシウムが関わっていることを解明したのは日本の研究者江橋節郎氏です。トロポニンというたんぱく質にカルシウムが付くと筋肉の繊維を構成しているアクチンとミオシンの位置関係が変わります。そのスライド運動により筋肉の収縮と弛緩が起こることを突き止めました。

図:ウィキペディア トロポミオシンより引用

 筋肉がちょうどよいタイミングで収縮したり弛緩したりするためには細胞内のカルシウム濃度が瞬時に変わる必要があります。それを実現させるために細胞内外の濃度差とカルシウムチャネルを利用しています。
 細胞内と細胞外のカルシウム濃度は1:10000もの差があります。細胞内の濃度を瞬時に下げるために筋肉の細胞内にはカルシウムを蓄える小器官とカルシウムチャネルをたくさん配置しています。細胞内と細胞外(小器官内)の濃度差が小さくなると調節機構がうまく働かなくなります。必要な時にカルシウムを血液中に調達出来るように骨にカルシウムをストックしているとも考えられるのです。
 次回もカルシウムの調節機構のお話です。お楽しみに!


※刊行当時の内容のまま掲載しているため、現在の状況とは異なる記述もあります。


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