甘美と狂気ーガヴリーロフ氏のピアノリサイタル
今月15日、アンドレイ・ガヴリーロフ氏のピアノリサイタルに行った。
私はピアノを始めて20年以上経つけれど、そんなにピアニストには詳しくないし、ロシアピアニズムとか深い知識を持っているわけでもない。
だから私は失礼ながらガヴリーロフ氏をよく知らなかったが、彼の演奏が好きだという恋人が誘ってくれて、25歳以下は1000円という安さでチケットを手に入れられたから、一緒に行くことにした。
演奏は独特で面白くて、でも響きが美しくて、曲の世界に吸い込まれていくようだった。「すごいものを聴いてしまったな」という感覚が残っている。ガヴリーロフ氏はピアノの前につくと、息をつく間もなく、わりとすぐに演奏を始めるタイプだった。彼が鍵盤に指を置いた瞬間から、会場の空気が変わる。そしてみんながその世界に吸い込まれるような、そういう感覚だった。
甘美と狂気の対比
始めは甘美で優しく繊細なショパンのノクターンを4曲。極限のピアニッシモを聴いた気がする。こんなに小さい音出るんだ…と思った。消えそうなほど小さい音。間の取り方はとても独特で、彼にしかできない演奏なんだろうと思った。
休憩時間にたまたま遭遇したピアノサークルの友達が「ノクターン変だったよね笑」って言っていたけど、本当にそうなんだよ。変なんだよ笑 それだけ独創的で、今まで聴いたことのないノクターンだった。
こういう甘くて優しくてうっとり♡みたいな曲が得意なのかと思えば、その後は反して、激しく力強いリストのロ短調ソナタと、プロコフィエフのピアノソナタ第8番。すごく”ハチャメチャ”で狂っていて、私は絶対弾かないというか、弾こうと思わないタイプの曲。そもそも難しすぎて弾けないと思うけど笑
これは極限のフォルテッシモなのかも。打鍵が激しすぎて弦が弾けないか心配だった。ノクターンで極小音に感銘を受けたが、打楽器さながらに叩きつける演奏もみられて、振り幅がすごい。激しく弾ききって、その勢いで立ち上がるラストの姿にも圧倒された。
私が一番好きだったのはアンコールのモーツァルトの幻想曲だった。モーツァルトって、習うときは淡々と単調に弾くように言われることも多いけど、彼のモーツァルトはそうじゃない。歌っていた。メロディーラインが美しくて、モーツァルトでこんなにうっとりさせられるなんて。
うっとりしていたら、一番最後の締めはまた激しく終わった。プロコフィエフの悪魔的暗示という曲らしい。常々、甘美と狂気の対比だったな。
合間に見せる気さくでお茶目な姿
もう一つ印象的だったのは、合間の気さくでお茶目な姿。顔写真からして、優しそうな人柄が伝わってきたけど、本当にそうだったみたい。1曲目を弾き終わった後に、客席に向かって「ダイジョウブ?」と話しかけたり、ソナタの第一章が終わった後、間違えて拍手してしまった人がいて、それに対してシーっと静かにするように促して「まだだよ」みたいなことを話していたり…
演奏の合間にトークでもなくこうやって客席に話しかけるピアニスト、私は初めて見た。みんな笑っていて、ユーモア溢れるチャーミングな姿、そんなところもいいな好きだなと思った。
これで1000円なんて安すぎるよ…コロナ禍で本当に久しぶりのリサイタル。行ってよかった。
それと、これに関連して書き留めたい話ができたので、それは次回綴りたいと思う。