花束みたいな恋をした、みたいな恋と別れの話
恋に溺れたことはない。自分を失うほど恋にのめり込んだこともない。会いたくて会いたくて震えるなんて論外。
そんな私でも7年付き合った彼と別れた日は、今までにないくらい涙が溢れて止まらなかった。とめどなく流れる涙で一睡もできずに朝を迎えた。泣き明かすって、こういうことなんだと思った。
彼から別れを告げられても、受け入れられたからこそ、引き留めることもしなかった。喧嘩別れでもなく、お互い話し合った上での決断だった。
私は身を壊すような恋はしたことがなくて、性格上これからもたぶんそうだと思う(結局自分が一番大事だから笑)。でも泣き明かしてみて、このまま仕事ができなくなったり、ごはん食べられなくなったりするのかなと初めて思った。
実際は全然そんなことなかった。別れ際、彼に「3日も経てば普通に仕事してそう」と言われたが、その通りだった。鬱病にもならなかったし、食欲もあるし、涙が止まらなかったのも一夜だけ。時折思い出して胸が痛くなることはあるけど、普通に仕事をして、食べて、寝て、淡々と日常生活を送っている。
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彼と付き合った7年間はとても穏やかな日々だった。喧嘩をすることはあっても、浮気や修羅場を迎えたことはなく、別れの危機もなかった。
大学のサークルで出会い、私はインカレ生だったので違う大学に通っていた。大学時代は互いの大学に潜入したり、ピアノに没頭し、社会人になっても1週間に一度は会って、いろんなレストランやカフェを巡った。都内のコーヒーロースタリーは彼と一緒にほぼ行き尽くしたと言っていい。
恋人というより家族のような存在で、一緒にいることが当たり前だった。好きな食べ物も苦手な食べ物も同じ、その日食べたいものも大体一致するし、示し合わせていないのに偶然似た服を着て来ることも多々あった。性格は違うけど、趣味や価値観、感性がすごく合っていたからこそ、7年も続いたのだと思う。
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映画『花束みたいな恋をした』を観た時、自分たちのようだと思った。好きなものがたくさん一致して運命を感じて付き合って。だんだんズレが重なって楽しかった日々が思い出に変わる。付き合ってから別れるまでの流れを丁寧にリアルに描いている。
付き合い始めの感覚も別れも、なんだかちょっと似ていて、胸に迫ってくるものがあり泣きながら観ていた。
別れ際に「結婚しようよ」と麦は言う。結婚して子供が産まれて、楽しく暮らしているのが目に浮かぶんだと。結婚すれば上手くいくんじゃないかと。
その気持ちがすごく理解できる。結婚したらしたで上手くいくのではないか。7年も一緒にいたのだからと思うことが今でもある。
いずれ結婚するだろうとお互い思っていた。でも結婚を考えた時に、踏み出せない理由が幾つかあり、結婚がなければこのまま付き合っていたけど、結婚を考えたら別れた方が良いのかもしれないと、話し合って決めたのだった。
結婚した後のことを想像すると、麦のように楽しく暮らしている姿も目に浮かぶ一方、喧嘩ばかりしている姿も見えてしまう。上手くいくかどうかなんてわからないけど、結婚するには不安要素が多かったのかもしれない。
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いつもと変わらずデートをした帰りに、いきなり想いを告げられて、別れってこんなに突然くるものなのかと悲しい気持ちになった。この7年間、たくさん喧嘩して、その度に自然と仲直りするか、話し合って解決してきた。だから今回も今まで通り、乗り越えていくんだろうと思っていたのに。そうはならなかった。
別れて3日後、「もう一人なんだっていう虚無感がすごい」と彼からLINEが来た。7年も付き合っていたのだから、そうなるのは当たり前だと思う。
別れた直後は悲しい気持ちの方が大きかったが、時が経つにつれて悔しさが増してきた。なぜ私が振られなければならなかったのか。別れるなら私が振りたかった。「虚無感がすごい」とか言ってくる相手もそれで本当に良かったのか。この悔しさも結局、自分が一番大事ということの表れなのかなと思う。
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悔しいので、今は引きずってはいない。
彼と過ごした日々は、本当に花束のようで、そんな穏やかな関係を7年も続けてこられたことに感謝している。出会うべくして出会った相手であり、一生涯のうちの通過点に過ぎないとしても、7年のうちに互いに与えた影響は計り知れない。
私は楽しい思い出も嫌な思い出も、全部胸に抱いて生きていきたいと思っているから、彼と過ごした7年間の花束を胸にしまって、次の花束を迎えたいと思っている。
私は恋愛経験が少なく、今までがあまりにも穏やかだったから、次に踏み出す不安や怖さは大きい。彼と最後の晩餐をした時も「また一からと思うと、先が思いやられるね」と話した。
この7年間で積み上げてきた互いへの理解や信頼、それらが全て白紙になると思うと、また一から関係を築き上げるのを面倒くさいと思ってしまう。
不安や面倒くささが半分、新たな出会いへの楽しみが半分。出会いも別れも、次に進むための人生の花束だと思って、生きていきたい。